田中将大「ふぅ… 今日も登板に向けていい調整ができたな」
練習帰りのバスで田中は一息つきスマホを手に取る
NPBの動向をチェックする日課の時間だった
「そういえば今日はうん公の2軍戦があったはず…」
慣れた手付きでTwitterを開く
(なになに…勝利投手は藤浪…敗戦投手は…斎藤佑樹!?)
思いもよらぬ結果にニチャァ…と陰湿な笑みを浮かべ、長らく見る機会のなかったなんJを開いた
「『さいてょ大炎上w、弱すぎて草』っと」
やはりなんJで斎藤とおハムをバカにするのが何よりの至福だ
すぐにおハムが噛みついてくるはず、久々におちょくって遊んでやろう
しかしおハムの反応は田中の想像とは違うものだった
「さいてょってなに?」
「たしか斎藤佑樹とかいう無名のこと」
「そんなことより試合始まるぞ」
と、スマホが震え通知が表示される
斎藤のTwitter更新を告げるものだった
さっそく糞リプを送りなんJに貼り付ける
『おいさいてょの言い訳ツイート見ろよ』
「4番中田きたーー!」
「今日もメンツやばすぎw」
「戦犯は増井と予想」
田中の書き込みに反応する人間はいなかった
かつて自身のライバルと謳われた斎藤佑樹の話題に関心をもつ者は皆無であり
ハムオリなどという過疎試合の実況でそこは埋め尽くされていた
田中の目から一筋の雫が溢れ落ちる
『課題見つかったな』『無限のラストチャンス』『カイエン乗れねぇ』
とうに降りるべき停留所は過ぎ
それでも涙に顔を歪め夢中でスマホを叩いているその男の姿を
他の乗客たちは不思議そうに眺めていた