ライトノベルの歴史まとめ!70年代~2014年まで !時をかける少女 ハルヒ レールガン | 質問の答えを募集中です! ライトノベルの歴史まとめ!70年代~2014年まで !時をかける少女 ハルヒ レールガン | 質問の答えを募集中です!

ライトノベルの歴史まとめ!70年代~2014年まで !時をかける少女 ハルヒ レールガン

ライトノベル

ライトノベルの歴史をその年出版された代表作とともにまとめてみました。私見に基づくまとめではありますが、ライトノベルや書籍文化が好きな方に楽しんで頂ければと思います。掲載作品・画像等の著作権は、各作家並びに各出版社に帰属致します。※データはすべて14年8月末時点のものです。

  1. ライトノベルの歴史をたどってみる
  2. ライトノベルの定義
  3. 1970年代以前 ライトノベル前史
  4. 1970年代後半~80年代中頃 黎明期・ライトノベルの胎動
  5. 「元祖」ラノベ?作家たち
  6. 1986年、ドラクエ発売
    1. ライトノベルの土壌が作られた時代
  7. 1987-1997 形成期・ライトノベルの誕生と第一次ブーム
  8. 1987、1988年 ラノベ二大レーベルによる『元年』
  9. 1989年
  10. 1990年 スレイヤーズ!の衝撃
  11. 1991年
  12. 1992年
  13. 1993年 電撃文庫創刊
  14. 1994年 我は放つ光の白刃!オーフェンの大ヒット
  15. 1995年
  16. 1996年 第一次ラノベブームのピーク、そして停滞
  17. 1997年 第一次ブームの終わり
  18. 1998-2002 過渡期・混沌の中に生まれる才能
  19. 1998年 電撃文庫時代の幕開け ブギーポップは笑わない
  20. 1999年、2000年 セカイ系とライトノベル
  21. 2001年
  22. 2002年 西尾維新デビュー メフィスト賞がラノベに与えた影響
  23. ラノベの復権は、ラノベの外側から起こったのです。
  24. 2003-2010 成熟期・第二次『ライトノベル』ブーム
  25. 2003年 「涼宮ハルヒ」の業績
  26. 2004年 ゲームシナリオライターの台頭、人気シリーズの開始
  27. 2005-2007年 多様化するライトノベル
  28. 2008年 ラブコメ黄金期
  29. 2009年
  30. 2010年 ブームの肥大化、忍び寄る時代の変化
  31. 2011-2014~ 変革期・ライトノベルの特異点
  32. 2012年 ニンジャが出て殺す!
  33. 2013年 ネットからの才能

ライトノベルの歴史をたどってみる

大型書店はもちろん、小さな書店でも、いまやライトノベル(ラノベ)コーナーがあるのは当たり前になってきました。

でも『ライトノベル』という言葉が生まれ、そのジャンルが根付いてきたのは実はまだ最近のこと。

書籍市場で大きなシェアを持ち、さらに多様化してきた現在、その歴史をまとめてみたいと思います。

そもそも何をもって『ラノベ』とするのか?

内容がファンタジー?表紙がイラスト?出版レーベル?メディアミックスしやすい?…など、さまざまな理由が考えられます。

「どこからラノベか!?」「あの作家はラノベ作家か!?」という議論を始めてしまうと、はっきり言って終わりません。百年戦争です。

細かすぎて読めないと思いますが、このコラ画像で言っているラノベの定義を一言でまとめると、

『ラノベレーベルから出てればラノベ!!(ただし、ハヤカワ、ソノラマ、講談社BOX、徳間デュアルは認めません!)』

乱暴なようですが、割と納得のいく答えです。

この[まとめ]では、

『ライトノベル』とは、
①ラノベレーベルから出版されている作品。
②講談社BOX、メディアワークス文庫など、意見の割れがちなレーベルもそこに含める。
③一般レーベル文庫やハードカバー作品などに関しては、①に該当するラノベ読者層をはっきり意識した作品かどうか(例えば装丁がイラストか、作者の出自や経歴など)で判断する。

という定義で考えていこうと思います。

あくまでこのまとめ内でのルールです。異論は山ほどあると思いますが、「ラノベの歴史」を考える上でできる限り多くの作品を掬い上げられるよう、広めに設定しました。

では、ラノベの歴史をみていきましょう!


作品データはすべて2014年8月末時点のものです。

ラノベの歴史のはじまりを考える上で、まずその源流をたどっていきたいと思います。
ライトノベル前史~黎明期です。

時をかける少女 〈新装版〉 (角川文庫)

源流その1~ジュブナイル

児童文学でもなく一般文芸でもない、十代の少年少女向きの文学は『ジュブナイル』と呼ばれてきました。

内容は青春物やミステリ、SF、ファンタジーなどが多く、いわゆる純文学に比べ「子供向き」と揶揄されることも多かったようです。

いわば、ラノベのお母さんです。

画像:「時をかける少女」著・筒井康隆
ジュブナイルの金字塔と言える屈指の青春SF。細田守監督によるアニメ映画も記憶に新しいですね。
筒井御大自体はジュブナイル作家というより不条理SF作家ですが……。
御大は近年「ビアンカ・オーバースタディ」というメタラノベも執筆。ラノベにとってはご先祖様が枕元に立って叱りに来たようなもんです。

柳生忍法帖 上 山田風太郎ベストコレクション (角川文庫)

源流その2~伝奇小説

伝奇小説というのは、歴史上の出来事や人物をモチーフにしつつも、そこに空想上のアイデアを持ち込んだ、壮大なエンタメ作品のこと。

こう言うと「時代小説じゃん」と思うかもしれませんが、それより妖怪や魑魅魍魎、神話や伝説、バトル、エログロなどを強調した漫画っぽい作風が多くなります。

こちらはラノベのお父さんです。

画像:「柳生忍法帖」著・山田風太郎
伝奇小説の代名詞と言える作品、作家でしょう。ヤンマガの「バジリスク」から入ってもええんやで。
山風が「ニンジャスレイヤー」を読んだら何て言うか聞きたかったですね。
この源流をもっとさかのぼっていくと、江戸時代の「南総里見八犬伝」にたどり着きます。

出典www.ne.jp

原型となる作品やレーベルが誕生

ジュブナイルと伝奇小説、この他にも海外ファンタジーやSFなど、多くのジャンルの影響を受け、ライトノベルの原型とも言える作品が産まれはじめます。

時代は1970年代後半~80年代中頃。
出版社もそうした流れを意識したレーベルを作り始めます。ハヤカワSF文庫、ソノラマ文庫、アニメージュ文庫などがそれに当たります。

画像:「妖精作戦」著・笹本祐一(ソノラマ文庫)
まだ表紙がラノベ風ではなく古き良きSF風ですね。
これが今では……↓

妖精作戦 (創元SF文庫)

画像:「妖精作戦」著・笹本祐一(創元SF文庫・新装版)

もちろん内容は上のものと同じです。
「妖精作戦」は個性的なキャラや詳細なメカニック描写が特徴的なジュブナイルSFで、元祖ラノベと言える作品の一つ。元々は1984年に刊行され、時代ごとに、様々な装丁で出版され直されてきました。

笹本先生は現在も「ミニスカ宇宙海賊」シリーズ(2012年「モーレツ宇宙海賊」のタイトルでアニメ化)など、第一線で活躍されています。

「現役最古のライトノベル作家」と自称されているだけのことはあります。さすが!

「元祖」ラノベ?作家たち

豹頭の仮面―グイン・サーガ(1) (ハヤカワ文庫JA)

「妖精作戦」だけでなく、「グイン・サーガ」(栗本薫)、「ダーティ・ペア」(高千穂遥)、「幻魔大戦」(平井和正)、「銀河英雄伝説」(田中芳樹)、「吸血鬼ハンターD」(菊池秀行)、などの作品が次々と刊行され大ヒットします。
他には新井素子、氷室冴子、神林長平らもデビュー。

これらはSFやファンタジーでありながら、これまでのジュブナイルや伝奇小説とは一線を画する作品ばかりで、娯楽小説の新しい扉を開きました。世代が変った大きなポイントです。

画像:「グイン・サーガ」著・栗本薫(ハヤカワ文庫)
130巻まで刊行されるも、2009年栗本先生逝去のため、未完の大作となりました。

1986年、ドラクエ発売

前述の作家たちの出現により、ファンタジーブームが高まっていましたが、それを決定付ける出来事が、小説とは違う角度から1986年に起こります。

ゲーム「ドラゴンクエスト」の発売と大ヒットです。

ドラクエの大ヒットを受け、小説の世界でもファンタジー物がさらに増加。ゲームとの相乗効果もあり、若者向けの小説ジャンルを席巻します。

ライトノベルの土壌が作られた時代

アルスラーン戦記〈1〉王都炎上 (角川文庫)

まだ『ライトノベル』という言葉自体はないものの、この時代にその土壌は作られたと言えるでしょう。

ここから数年の間に、レーベル創設やアニメ的なイラストを表紙や挿絵にする手法も整っていき、ラノベの歴史は本格的に幕を開けます。

画像:「アルスラーン戦記」著・田中芳樹
ドラクエと同年、1986年に始まった大河ファンタジーの名作。もはや古典と言ってもいいでしょう。まだ完結していませんが……。
最近「鋼の錬金術師」の荒川弘先生によるコミックも始まりました。
でもやっぱ田中芳樹と言えば天野喜孝!しかしこの天野絵が美麗な角川版は絶版。現在は光文社文庫版で読むことができます。

1987-1997 形成期・ライトノベルの誕生と第一次ブーム

このまとめでは、1987年を『ラノベ元年』としたいと思います。

「いつをラノベ元年とするか」も議論が尽きません。千年戦争です。ですから、これはあくまで私見でしかないことをご了承ください。

1987年を元年と考える理由は、2大老舗レーベル、角川スニーカー文庫(87年10月創刊)と富士見ファンタジア文庫(88年創刊)の創設です。作家や出版社が意識的にライトノベルという新しいジャンルの開拓に乗り出したこの時期を、元年に設定したいと思います。

では、ここから歴史を追いながら各年代の代表的なラノベ作品を紹介していきたいと思います。
最後まで読んでいただくと、オールタイムでのお薦めラノベ50選(くらい?)にもなります。
興味を持たれた作品はぜひ書店などで手に取ってみてください。
(※ 多くの作家を取り上げられるよう、基本的に一作家一作品で紹介していきます。)

では、ラノベ風に言うと『第一シリーズ・ライトノベル形成期編』、いってみましょう!

1987、1988年 ラノベ二大レーベルによる『元年』

ロードス島戦記―灰色の魔女 (角川文庫―スニーカー文庫)

ロードス島戦記

著・水野良/原案・安田均/イラスト・出渕裕
スニーカー文庫(1988年・全7巻、他外伝)

剣と魔法、エルフにドワーフ、帰らずの森……。正にキングオブファンタジー。

この作品が特徴的なのは、元々TRPGのリプレイ小説であること。
TRPGとは、能力値をダイスで設定した自作キャラになりきり、みんなで冒険するゲームのことで、ドラクエなどRPGの元祖です。現在ではネットオンラインで楽しむのが主流ですね。
リプレイ小説は、そのゲーム内での展開や発言を小説化したもので、今も「ソード・ワールド」など人気作が多数あります。

「ディードリットは俺の嫁!」と思ったあなた、年がバレますよ。

風の大陸 第一部 邂逅編 (富士見ファンタジア文庫)

風の大陸

著・竹河聖/イラスト・いのまたむつみ
富士見ファンタジア文庫(1988年・全28巻、他外伝)

スニーカーの初期代表作がロードス島なら、富士見はやはり風の大陸でしょう。
古代アトランティス大陸を巡る壮大な大河ファンタジー。いのまたむつみ先生の美麗イラストも人気が高い作品です。

ただ、全28巻、完結までに20年弱かかり、途中で脱落した読者も多いのではないでしょうか。
こうした「終わらない(終わりどころを見失った)作品」が多いのも、一般文芸よりも漫画などに性質の近いラノベならではの特徴かもしれません。

1989年

フォーチュン・クエスト―世 にも幸せな冒険者たち (角川文庫―スニーカー文庫)

フォーチュンクエスト

著・深沢美潮/イラスト・迎夏生
角川スニーカー文庫~電撃文庫
(1989年・全8巻、新シリーズ全20巻、その他シリーズ、外伝など多数。現在も続刊中)

ファンタジーとはシリアスで、主人公は強くなくてはならない。
そんな固定観念を打ち破った最初のラノベではないでしょうか。今や当たり前の「ほのぼのファンタジー」のパイオニアです。
スニーカーで始まりましたが、新シリーズから電撃文庫に移籍しています。

低年齢層にも読みやすく、近年ポプラポケット文庫からも刊行。実際、童話的な話も多く、ジュブナイルを正統に受け継ぐ名作です。

特に「忘れられた村の忘れられたスープ」はラノベ史に残る名エピソード!

宇宙一の無責任男

著・吉岡平/イラスト・都築和彦
富士見ファンタジア文庫
(1989年・全9巻、外伝6巻、その他続編など)

「無責任艦長タイラー」というタイトルで覚えている方や、アニメ版のイケメンタイラーの印象が強い方も多いと思います。

アニメ版と原作の設定の相違から、アニメ寄りにリライトされたシリーズも。
今ではラノベが最初からアニメ化を意識するのは当たり前ですが、まだそうした文化も確立していなかった時代背景を感じさせるエピソードですね。

内容は「スーダラ節×スペースオペラ」。そう言っても分からない若い世代には、「部長・島耕作×スペース・ダンディ」と教えてあげましょう。

アニメ版イケメンタイラー。

小説も後半の表紙は、アニメのキャラクターデザインを手がけた平田智浩氏に変更されています。

ちなみにアニメ「タイラー」は、TVアニメにおける制作委員会(スタッフロールのエンドに出るアレです)表記の元祖でもあります。

スレイヤーズ! (富士見ファンタジア文庫)

スレイヤーズ!

著・神坂一/イラスト・あらいずみるい
富士見ファンタジア文庫
(1990年・全15巻、すぺしゃる全30巻、現在もその他シリーズが続刊中)

キャラ、世界観、イラスト、台詞回し、シリアスとギャグのバランス、あらゆる点で『ライトノベル』の方向性を確立した金字塔的作品。シリーズ累計2000万部のメガヒット作です。

練られたファンタジー世界観と魔法の設定、そして何より豪快な主人公リナ=インバースのキャラクターが魅力の作品です。

ラノベの認知度を押し上げた意味でも、後の作品やキャラクター造形に与えた影響という意味でも、ラノベ史において避けては通れません。

「ライトノベル」の命名は、1990年初めにパソコン通信ニフティサーブの「SFファンタジー・フォーラム」において、それまでのSFやファンタジーから独立した会議室を、会議室のシスオペであった“神北恵太”が「ライトノベル」と名付けたことが始まりであるとされる

出典ライトノベル – Wikipedia

引用の通り、『ライトノベル』という言葉の誕生は1990年と言われています。しかし、この言葉が一般的に定着するのは10年以上先、2000年頃です。
それでも、1990年を『ラノベ元年』と考える人は多いです。その理由は、言葉の誕生によるものではなく「スレイヤーズ!」の存在に他ならないでしょう。

スレイヤーズすまっしゅ。5 恋せよオトメ (富士見ファンタジア文庫)

神坂先生だけでなく、イラストのあらいずみるい先生も、「90年代アニメ絵」の画風を確立したイラストレーターの一人として非常に重要。
そうした意味でも、スレイヤーズの後々への影響は計り知れません。

画像:「スレイヤーズすまっしゅ」5巻(富士見ファンタジア文庫・2011年)
現在も何年かに一度、短編集や番外編が刊行され継続しています。

1991年

極道(ゴクドー)くん漫遊記 (角川文庫―スニーカー文庫)

極道(ゴクドー)くん漫遊記

著・中村うさぎ/イラスト・桐嶋たける
角川スニーカー文庫 ※外伝は電撃文庫
(1991年・全13巻、外伝は10巻以降未完)

作者の中村うさぎ先生は、あのTVやエッセイで大活躍されている中村うさぎさんです。あの方、元々ラノベ作家なんですよ。

内容はとにかく主人公のゴクドーくんがゲス!
卑怯で下品なダーティヒーローものです。徹頭徹尾ゴクドーくんが非道なのに、なぜか読後感が爽やかなのは中村先生の筆力のなせる技か。それとも人間力のなせる業なのか。

アニメ化の際「ゴクドーくん漫遊記」の表記になり、小説もその後そちらに合わせ改題されました。

著・冴木忍/イラスト・田中久仁彦
富士見ファンタジア文庫
(1992年・全9巻)

もしかしたら若い世代の方は、タイトルだけ聞いてコミカルな話を想像するかもしれません。しかし、実際のストーリーは重く、心優しい主人公・カイルロッドが常に悲劇の中で悩み、苦しみ、成長していく物語です。

この作品を好きだった読者の方は、大人になった今もずっと、カイルロッドの甘っちょろい、でも失ってはいけない優しさが胸に残っているのではないでしょうか。

全9巻で続編や番外編がないところも、潔い作品です。

著・小野不由美/イラスト・山田章博
講談社ホワイトハート文庫~新潮文庫
(1992年・現在シリーズ12巻(上下巻含む)~継続中)

十二国世界の様々な国、時代で繰り広げられる物語絵巻。シリーズ累計700万部以上、アニメ化もされた大ヒット作。
講談社ホワイトハート文庫から刊行されていたため女性人気が根強いですが、老若男女誰が読んでも面白い普遍的な名作です。

ライトノベルというより正統派異世界ファンタジーの趣が強いですが、女性読者への求心力などから、やはりラノベの歴史を語る上で欠かせない作品だと思います。

2012年から新潮文庫に移籍、新装版が出し直されています。

※ 十二国記シリーズの最初の出版となる「魔性の子」は1991年新潮社刊行ですが、番外編の色合いが濃く、シリーズとしては1992年講談社刊行の「月の影 影の海」からと考え、1992年作品に含めました。

1993年 電撃文庫創刊

現在のライトノベルの最大手、電撃文庫は1993年に創刊されました。
90年代、スニーカーと富士見の二強時代はまだしばらく続きますが、その陰で着実にシェアを伸ばしていきます。

同年、週刊少年ジャンプの集英社も「ジャンプジェイブックス」というライトノベルを意識した小説レーベルを創設。
今ではほとんど連載漫画のノベライズを出すためのレーベルとなっていますが、初期はオリジナル小説が中心で、ここからは乙一、直木賞作家の村山由佳、SF作家の小川一水などそうそうたる顔ぶれがデビューしています。

著・あかほりさとる/イラスト・臣士れい
電撃文庫
(1993年・全6巻、外伝全3巻)

記念すべき電撃文庫創刊の年に生まれた同レーベル大ヒット作。『俺つえー』系主人公、エロとギャグがてんこ盛りだけど締めるところは締めるストーリー、今のラノベのお手本とも言える作品です。

アニメやコミカライズといったメディアミックスが上手に連動していたところも、今のラノベとの共通点。電撃文庫は最初からブレていなかったことがよく分かりますね。

それにしてもお下劣(エロではなくお下劣)を書かせたら、ラノベ史上あかほり先生の右に出るものはいないでしょう。

著・庄司卓/イラスト・赤石沢貴士
富士見ファンタジア文庫
(1993年・全12巻未完、その後朝日ノベルズ刊行の完全版にて完結)

女子高生ヤマモト・ヨーコをはじめとした可愛い女の子たちが宇宙戦艦で戦うSF。萌え度の高い戦闘美少女ものの元祖とも言えるでしょう。
宇宙戦艦版ガルパン?と思ったあなたは勘が良いですよ。

しかし内容は海外のローダンシリーズなどからの影響を感じさせる、骨太なSFでもあります。

最終巻を残し長らく未完のままでしたが、2010年から朝日ノベルズにて完全版刊行が開始され、20年の歳月を経て、ついに完結。

表紙絵も今風になっていますが、イラストレーターは昔と同じ赤石沢貴士先生です!
画風も時代とともに移り変わるものですね……。

画像:「それゆけ!宇宙戦艦ヤマモト・ヨーコ完全版」完結12巻(朝日ノベルズ・2013年)

著・茅田砂胡/イラスト・沖麻実也
中公C★NOVELS
(1993年・全18巻、他外伝)

中公C★NOVELSをラノベと認めるか否かでまず意見が別れそうな気もしますが、やはり茅田砂胡先生を外すわけにはいきません。

耽美的なイラストから女性ファンが多いですが、中身は硬派な大河ファンタジー。

栗本薫先生をはじめ、冴木忍先生、小野不由美先生、茅田砂胡先生らに目覚めさせられた女性ラノベ読者も多いのではないでしょうか。


シリーズの最初の出版は「デルフィニアの姫将軍」(大陸書房・1992年)ですが、正規シリーズとしては中公刊行「放浪の戦士」からと考え、1993年作品に含めました。

1994年 我は放つ光の白刃!オーフェンの大ヒット

著・秋田禎信/イラスト・草河遊也
富士見ファンタジア文庫~TOブックス
(1994年・全20巻、短編全13巻、現在新シリーズ続刊中)

90年代ラノベの中でも「スレイヤーズ!」と並ぶ大ヒット作にして超重要作品。シリーズ1000万部発行。

シリアスな本編、コミカルな短編集、そして伏線をつないでいく過去編と、どこを読んでも面白い大傑作です。

一癖も二癖もあるキャラたち、魔法詠唱の台詞回しなど上げていけばキリがないですが、最大の魅力は、読みやすさと重厚さを併せ持った秋田先生の文体ではないでしょうか。
ラノベ云々を抜きにして、非常に文章力の高い作家だと思います。

開始から10年かけ、2003年に完結。

その後、2011年から新シリーズがTOブックスより刊行され、このほど完結しましたが、今後短編集などが刊行予定のようです。
前シリーズが第一、二部。新シリーズが第四部と銘打たれているため、少なくとも第三部はそのうちやりそう……。
ちなみに旧シリーズも新装版でTOブックスより復刊しています。

こちらもイラストは変わらず草河遊也先生。進化しつつも、良い意味で画風が変わっていないので、イメージを損ねずに読めますね。

画像:「魔術師オーフェンはぐれ旅・新シリーズ」完結8巻(TOブックス 2014年)

1995年

著・高畑京一郎/イラスト・衣谷遊
電撃文庫
(1995年・上下巻)

「ラノベじゃねぇ!SFだ!」とお怒りの方もいらっしゃるかもしれませんが、電撃文庫から出てますしね。

内容は90年代の「時をかける少女」。しかし決してただの二番煎じにはなっていない名作です。

87年から代表作を紹介してきましたが、これが初めてファンタジーではない作品です。
異世界ファンタジー一色だったラノベ業界は、この辺りから多様化していきます。
理由は、前年のオーフェンの登場で行き着くところまで行ってしまい、ファンタジージャンル自体がピークを迎えてしまったことが考えられます。

※「タイム・リープ あしたはきのう」が電撃文庫化されたのは1997年ですが、本の発売自体は1995年にメディアワークスより単行本として刊行されているため、1995年作品に含めています。

1996年 第一次ラノベブームのピーク、そして停滞

「スレイヤーズ!」など大ヒット作を産み、一気に市場を伸ばしたラノベですが、90年代後期にピークを迎えた後、停滞期に入ります。

ヒットシリーズは売れ続けるものの、目新しいヒット作は少なくなり、ジャンル的にも中世ファンタジーが読者に飽きられ始めます。

そして最大の問題が、読者層が大人になってしまったこと。夢中になって読んでいた少年少女も、大学生や社会人になり離れていってしまいます。
わずか十数年前ですが、この頃は現在に比べるとまだ「アニメやライトノベルは成長とともに卒業するもの」という意識がより強かった時代でした。

※ 画像:特別番外編「スレイヤーズVSオーフェン」。第一次ラノベブームメガヒット作のコラボ。2001年にドラゴンマガジン誌上で行われ、2005年に限定単行本化。2013年復刊。

もう一つ、異世界ファンタジーの衰退に拍車をかけたのがゲーム業界からの影響です。ドラクエの所でも述べたようにゲームとラノベは強く影響し合っています。

1997年の大ヒットRPG、プレステにハードを移し発売された『FINAL FANTASY Ⅶ』が象徴的でしょう。銃やバイクが当たり前に魔法と同居するサイバーパンク的世界観は、これまでの中世ファンタジー型RPGとは全く異なっていました。

もう「剣と魔法」の時代ではなくなりつつあったのです。

しかし市場として確立したため、業界側はさらにレーベルや賞を増設し、拡大に乗り出します。

94年には電撃ゲーム大賞(後の電撃文庫大賞)、96年にはスニーカー大賞が開始。レーベルでは96年にファミ通ゲーム文庫(のちのファミ通文庫)が創設されます。

第1回スニーカー大賞からは、後年「マルドゥック・スクランブル」(※画像・早川書房 2003年)や「天地明察」で大ヒット作家となる冲方丁を輩出。

他にも同96年ジャンプ小説・ノンフィクション大賞からは乙一がデビューするなど、新しい素晴らしい才能が次々現れます。

しかし、このことが結果的にさらにラノベを停滞させてしまいます。

乙一、冲方丁、また同時期にデビューした桜庭一樹や清涼院流水といった作家陣。

彼らの多くはライトノベル畑出身ながら、ジャンルの垣根を軽々と飛び越え、ミステリやSF、純文学などを横断する新しいエンタメ作家として認知されていきます。
(清涼院流水は講談社メフィスト賞出身ですが、同賞はミステリ賞ながら、ラノベを含む新しいエンタメを意識したカウンター的な賞でもありました)

画像:「失踪HOLIDAY」著・乙一(スニーカー文庫 2000年)
乙一先生自身も過去に「ライトノベルへの愛情がある一方、ライトノベルゆえに読んでもらえない悔しさがあった」という主旨の発言をされています。

こうした新世代作家は生まれるものの、彼らの多くはファンタジー一辺倒で停滞するラノベ業界には収まらなくなってきていました。
新しい才能を受け入れる器が育たないまま、ラノベ業界は90年代後半、売上の数字は伸びるものの、ジャンルとしての閉塞感はどんどん強まっていったのです。

こうした流れから、1996年はライトノベルの歴史を語る上でのヒット作をピックアップするのが難しい年でもあります。
「星界の紋章」(著・森岡浩之 ハヤカワ文庫)や、乙一先生デビュー作「夏と花火と私の死体」(集英社ジャンプジェイブックス)など名作はありますが、どれも前述したようにラノベというジャンルを意図的にはみ出して書かれた印象が強い作品です。

というわけで、あえて異色作を紹介したいと思います。

著・平井和正/イラスト・泉谷あゆみ
電撃文庫~電子書籍
(1996年・全37巻)

SFの大御所・平井和正先生による、自身の20年前の大ヒット「ウルフガイシリーズ」の続編に当たるメタラノベ。

ヒット作の売上がピークに達し、一見盛り上がっている中で確実に停滞しつつあったラノベ。
そんな中、元祖である平井先生が「やっと時代が俺らに追いついたな」と書いてみたら、結果的にラノベの枠を飛び出してしまったという問題作。

内容は暴力・エロ・不条理SFのオンパレードで、はっきり言って奇書です。私は大好きですが。
ただ、ラノベの懐が深くなった今の時代なら受け入れられるような気もします。

鷹垣人美は俺の嫁。

※ 「月光魔術團」はアスキーアスペクトノベルスで1、2部が刊行後、1部のみその後電撃文庫で出版されていますが、ノベルス版1巻の発売に合わせ1996年作品に含めています。
ちなみに3部は、90年代にして著者HPにて電子書籍でしか購入できないシステムでした(書籍版は限定ボックスのみ)。
大人の事情があったとは言え、さすが平井先生、もはやご本人がSFを地で行っています。

ちなみに同じ大御所のメタラノベでは、筒井康隆先生が「ビアンカ・オーバースタディ」という作品を出しています。
イラストは「ハルヒ」のいとうのいぢ先生!

こちらは完全にラノベというジャンルが出来上がった2012年に、確信犯的に書かれたメタラノベですが、平井先生の「月光魔術團」はまだジャンルが未成熟な時期に無自覚に書かれたという違いがあります。

まあ、どっちも中身はエロ&エロ&不条理だけどな!
やっぱりこの世代の作家たちは色んな意味で絶倫ですね。

画像:「ビアンカ・オーバースタディ」著・筒井康隆(星海社FICTIONS 2012年)

1997年 第一次ブームの終わり

著・雑賀礼史/イラスト・いのうえ空
富士見ファンタジア文庫
(1997年・本編全19巻、他番外編全8巻)

90年代、ファンタジーRPGとともにゲーム業界の中心となっていたのがストⅡなど格闘ゲームです。

その流れに乗ったのがこの作品。これまでのヒット作よりも、現実に近いローファンタジーで、剣と魔法ではなく格闘がメインです。
そういった意味では、停滞するラノベに変化を与えようとした作品ではあったと言えます。しかし、その変化は旧来のラノベの枠から飛び出すほどではありませんでした。

作品自体は2010年まで続き、長くファンに愛されました。一次ブームの残響を新世紀までつないだヒット作です。

1998-2002 過渡期・混沌の中に生まれる才能

「ロードス島」から始まった第一次ラノベブームは下火になり、再び活性化するまでの間、過渡期が訪れます。
ここであえて乱暴な言い方をしますが、第一次ブームが停滞・衰退した90年代末に、一度ラノベは死んでいると思います。

『イラスト小説』、『アニメの表紙のやつ』などと呼ばれ、かと言ってジュブナイルやSFにも入れてもらえなかった、名前さえ付けてもらえなかったティーンズ向けの娯楽小説。

そうした小説ジャンルとしては、ここで一度終息してしまったと思います。

そして新たに『ライトノベル』という名前を与えられ、それが認知されるまでの数年間、新しい容れ物を求め、混沌の中にあったのがこの「過渡期」の数年間ではないでしょうか。

画像:「スレイヤーズ!」本編最終15巻(富士見ファンタジア文庫・2000年)
第一次ブームの終わりともに、人気シリーズも次々と一旦幕を下ろしていきます。

こう言うと過渡期はひどい時代のようですが、実際は逆です。最も才能に溢れた時代です。
現実の歴史でも過渡期に偉大な英雄が現れるように、ラノベも過渡期にこそ、歴史を変えた作家・作品が数多く産まれました。

この過渡期があったからこそ、ラノベは一過性のブームで終わらず、新しい小説ジャンルとして定着し、今の巨大市場につながったとも考えられます。

それこそラノベで言うなら、第二シリーズに行く前の伏線となる、非常に重要な短編シリーズといったところでしょうか。
では、『ライトノベル史・過渡期編』です。

1998年 電撃文庫時代の幕開け ブギーポップは笑わない

著・上遠野浩平/イラスト・緒方剛志
電撃文庫
(1998年・18巻~続刊中 ※1巻以外はすべて外伝とも言える)

スニーカー・富士見ファンタジア二強から電撃文庫一強へと時代を変え、これまでの異世界系ハイファンタジーからSF系ローファンタジーへとラノベ全体の潮流を変えてしまった、エポックメイキングな作品。

舞台は異世界から日常の学園へと変わり、悩むべきは世界の行く末ではなくセカイと自分との距離に変わりました。
魔法は異能力へ変わり、それはただの攻撃方法ではなく、キャラクターの内面を映す鏡となりました。

文学、ゲーム、漫画、そうしたサブカルチャーから『ライトノベル』を創造し直した大名作です。

※ 『ハイファンタジー』とは現実世界とはかけ離れた世界を舞台にした作品、『ローファンタジー』とは現実世界に似ていながらも少し違う世界を舞台にした作品や、現実世界に異世界が交錯するタイプの作品のことを指します。

ライトノベル畑から産まれ、他ジャンルへ越境していった作家たちが、この時期多くデビューしたと述べてきましたが、上遠野先生もその一人です。(ただし上遠野先生は、電撃文庫からも本を出し続けています)

そうした作家たちに多大な影響を与えたのが荒木飛呂彦先生による漫画「ジョジョの奇妙な冒険」。「ブギーポップ」にはジョジョへのオマージュが散りばめられています。

画像:「恥知らずのパープルヘイズ」(集英社)
上遠野先生によるジョジョ第5部スピンオフ小説。他には乙一、西尾維新、舞城王太郎がノベライズに参加。
舞城先生の「JORGE JOESTAR」よく叩かれとるけど、ワイはあれが一番好きやで。

著・賀東招二/イラスト・四季童子
富士見ファンタジア文庫
(1998年・全12巻、短編全9巻、他外伝 ※外伝は賀東先生は監修・原案のみ)

ローファンタジーへの移行は、「ブギーポップ」のような能力系及びセカイ系(後述します)、ラブコメ系に大きく二分されていくのですが、どちらにも属せず大ヒットしたミリタリーSFシリーズ。

ロボット物ですが、これまでのラノベに無かった「リアルな戦争」を描いた作品でもあります。架空の20世紀末を舞台に、北朝鮮や中東の情勢にも触れながらストーリーが展開していきます。

主人公・相良宗介の、心優しくも軍人としての悲哀を抱えたキャラクターにも人気が集まりました。

著・今野緒雪/イラスト・ひびき玲音
コバルト文庫
(1998年・全37巻、他2巻)

女性向けラノベ最大のヒット作。しかし男性読者も相当数いると言われています。

ミッションスクールを舞台に、お嬢様同士のスール(姉妹)の契りによる、親愛というか友情というか恋愛というか…そのもどかしい胸の痛み、ときめき、そう、それは一言でいうなら……百合。
というわけで、『百合』という萌えジャンル確立の立役者となった偉大な作品です。

一迅社は「マリみて」に足を向けて寝れませんね。

番外編シリーズに男子同士の「お釈迦さまもみてる」がありますが、こちらはタイトルでハードルを上げ過ぎたと思います。

1999年、2000年 セカイ系とライトノベル

セカイ系。世界の終わりや秘密と、自分と恋人、友人、家族との関係といった日常が、突然不条理に接続される物語。
世紀末という世相もあり、この時期爆発的に流行しました。代表作にはアニメ「新世紀エヴァンゲリオン」(特に旧劇場版)や、恋人が戦争の兵器にされる漫画「最終兵器彼女」、そしてラノベでは「ブギーポップ」などがあります。

セカイ系はキャラクターの内面を執拗に描く点、時間軸をずらす叙述トリック的手法を好む点、意図的な伏線の放置を行う点など、非常に小説と相性が良いジャンルだと言えます。

過渡期における新しいラノベの創造は、サブカル全体のセカイ系への熱狂によって加速したことは間違いないでしょう。

著・時雨沢恵一/イラスト・黒星紅白
電撃文庫
(2000年・17巻~続刊中、学園編5巻~続刊中)

主人公キノと、相棒のおしゃべりな二輪車・エルメスが淡々と、様々な国を旅していく物語。
異世界ファンタジーでありながら、第一次ブーム期と全く違うのは、世界を救うような大冒険も魔法戦争もしないこと。
キノとエルメスはただ静かに、傍観者として、あらゆる国の人間の愚かさや悲しさ、優しさを見守り、そして3日が過ぎると去っていきます。

連作短編の形をとった優しい物語で、セカイ系の影響下で甦った正統派ジュブナイル寓話と言ってもよいでしょう。

2001年

著・秋山瑞人/イラスト・駒都えーじ
電撃文庫
(2001年・全4巻)

青春SFです。「時をかける少女」の頃からずっとSFは青春を描いてきたジャンルでもあり、それを正統に受け継ぐ作品です。

夏休みの学校に忍び込んだり、好きな子にばったり会えないかなー、と考えたりするノスタルジー。
そして、一見平和に見える世界に忍び込む漠然とした恐怖。その二つが絶妙なバランスで描かれ、全4巻を一気に読まされてしまいます。

秋山先生の端正で読みやすい文章も魅力的。ラノベという枠に関係なく、非常に優れた作家だと思います。

「ブギーポップ」や「キノ」と同じく、ラノベに偏見がある方にこそ読んでほしい作品です。

著・滝本竜彦/イラスト・安倍吉俊
角川文庫
(2001年・全1巻)

滝本先生は「NHKにようこそ!」の方が有名かもしれませんが、歴史を語る上では、セカイ系の代名詞と言えるこちらの方が重要ではないでしょうか。

夜な夜な町に現れる不死身のチェーンソー男。そいつとの戦いに青春を消費する主人公たち。戦いには理由もカタルシスもない。
ズレた日常は修復されないまま、いつも通りの顔をして続いていく。

ドライブ感のある文体も含め、ゼロ年代のラノベ、アニメ、漫画などサブカルチャーの方向性を決定付けた衝撃作です。

※ 「ネガディブハッピー・チェーンソーエッヂ」は単行本が2001年刊行、文庫はラノベレーベルではなく通常の角川文庫から2004年に刊行されました。
レーベル的には判断が難しいところですが、ほぼラノベの賞であった角川学園小説大賞受賞作であること、単行本時から安倍先生を装丁に起用するなど、明らかにラノベ読者層を意識した作りから、2001年作品に含めました。

2002年 西尾維新デビュー メフィスト賞がラノベに与えた影響

著・西尾維新/イラスト・竹
講談社ノベルス
(2002年・全9巻※戯言シリーズ本編として。他番外編あり)

これはライトノベルではありません。
内容は正統派の新本格ミステリです。そして青春ミステリの先駆けでもあります。出自も講談社ノベルスというミステリレーベルの新人賞・メフィスト賞です。

しかし、『ライトノベル』という言葉の定着と、ジャンル自体の再ブームをもたらしたのは、間違いなくこの作品です。もちろん「ブギーポップ」や後述する「涼宮ハルヒの憂鬱」もそうした歴史的作品ですが、最重要作品はこの「クビキリサイクル」でしょう。

ラノベの復権は、ラノベの外側から起こったのです。

90年代後半の第一次ラノベブームピーク~停滞期に、乙一らをはじめとした新世代の作家陣が、ラノベ畑からデビューし、ラノベの外のミステリやSF、純文学の世界へと越境していった話をしました。

メフィスト賞は、その流れを加速させ、また逆に『ミステリからデビューした作家陣がラノベへと越境することで、更に新しいエンタメ作家を生み出す』ということを、ある程度意識的に行っていた賞でもあります。

代表的な作家陣には、京極夏彦、森博嗣、清涼院流水などがいましたが、そうした新世代エンタメ作家の決定打として、00~02年に3人の作家が現れます。

それが、佐藤友哉、舞城王太郎、西尾維新です。

※ 画像:「フリッカー式」著・佐藤友哉(講談社ノベルス・2001年)
グロと異常な妹萌えが交錯する不条理ミステリ。初めはミステリ的な実写の装丁でしたが、その後画像の笹井一個先生によるイラスト装丁に変更されました。
佐藤先生はこの後、純文学方面へと活動の場を移していきます。ところでユヤタン、『鏡家サーガ』の癒奈編はいつ出るの……。

佐藤友哉、舞城王太郎、西尾維新。
この3人の出現は、読み手側の「ラノベ・ミステリ・SF・純文学」という意識的/無意識的なジャンル分けを取り払う大きなきっかけとなります。

もちろんそれは最初、本好きやサブカル好きの若い世代に限られましたが、その成功を出版社側が察知し、確信的にボーダーレスにしていく流れを作り出したという意味はとても大きいでしょう。

出版社はこぞってラノベレーベルを作り、また一方で一般文芸やミステリでは少しずつイラスト系の装丁が増えていきました。

それが2014年現在の、多くの単行本がイラスト的装丁で、キャラを強調した内容になっている書籍市場につながっていったのだと思います。

※ 画像:「ディスコ探偵水曜日」著・舞城王太郎(新潮社刊・2008年)
舞城先生はミステリ、純文学をメインフィールドに最もジャンルレスに活躍している作家です。
「ディスコ~」は初音ミクのキャラデザでおなじみKEI先生が装丁イラストを担当。一般文芸中心の新潮社がこうした装丁で本を出すようになったということに、書籍市場の変化が見て取れます。
ちなみに内容は、新本格に見せかけたバカミス→時間SF→量子論的世界観へと1500ページに渡って展開され、それでも最後に愛が勝ちます。ワイは好きやで。

話をラノベに戻します。

上遠野浩平や滝本竜彦、そして佐藤友哉、舞城王太郎、西尾維新らメフィスト組。これにセカイ系ブームと、同時期に水面下で盛り上がっていたゲーム業界のシナリオライターの台頭。(これについては後述します)
これらが混沌としたまま「とにかく新しい面白い物語を産み出そう!」という熱が渦巻いていたのが、ラノベ過渡期です。

わずかこの三~四年の間に「剣と魔法の異世界ハイファンタジー」のイメージは刷新され、ラノベは「異能×日常のSF系ローファンタジー」を新たな幹として、第二次ブームへと発展していくのです。

※ 画像:「ネコソギラジカル・下巻」著・西尾維新(講談社ノベルス・2005年)
「クビキリサイクル」から始まる戯言シリーズ最終9巻。同シリーズは3巻まではミステリだったのものの、その後は異能バトルへと変化していきました。速筆なためわずか三年で完結、あっという間に新しいラノベのロールモデルを作り上げてしまいました。

著・高橋弥七郎/イラスト・いとうのいぢ
電撃文庫
(2002年・全22巻、短編全4巻)

もちろん変化は外側だけで起こっていたわけではありません。第一次ブームの異世界ファンタジー的な世界観に、新世代らしい異能バトルを盛り込んで大ヒットしたのが「灼眼のシャナ」シリーズです。

過去のラノベ、新しいラノベの両方の良さを上手くミックスし、分かりやすく提示した作品ではないでしょうか。

一般的に「ラノベの代表作」と例を挙げる時、90年代は「スレイヤーズ!」が引き合いに出されていたと思いますが、「シャナ」は00年代前~中盤におけるその役割を引き受けた作品と言えるでしょう。

2003-2010 成熟期・第二次『ライトノベル』ブーム

混沌と豊穣の過渡期を経て、ついに『ライトノベル』(略称・ラノベ)という名前が一般的にも定着します。そこには、「イラストだけで売っている内容の薄い本」、「文学ではない」といった侮蔑も多分に含まれていましたが、00年代を通し、売上や市場規模はどんどん拡大し、書籍市場においてその存在は無視できないものとなっていきます。

同時期に深夜アニメの隆盛などもあり、いわゆる『オタク文化』が90年代とは比較にならないほど市民権を得るようになっていきます。

2004年末には「このライトノベルがすごい!」が初めて刊行。それから毎年、話題の作品や作家、キャラクラーを取り上げ、「このミス~」や「このマンガ~」とともに年末の風物詩として定着していきます。

『ラノベ』が一過性のブームではなく、固定のジャンルとして確立してきたことを表していると言えるでしょう。

画像:「このライトノベルがすごい!2014」(宝島社刊・2013年)
ついに「このラノ」も10周年。

引き続きSF系ローファンタジーの異能バトルがヒットしますが、ストーリーそのものよりも、キャラクターに重きが置かれるようになります。キャラ重視の流れにより、独特のネーミング・中二的二つ名や能力名・キャラの過剰供給といった手法が大流行。こちらは、西尾維新先生の功罪でしょう。
また、アニメ化作品が急激に増え、過剰に萌え要素が求められるようになり、学園物やハーレムラブコメも急増。異能バトルと並ぶ柱となります。

第二シリーズは、百花繚乱の『ライトノベル史・成熟期編』。
その幕開けは、続いて紹介する作品の爆発的ヒットから始まりました。

2003年 「涼宮ハルヒ」の業績

著・谷川流/イラスト・いとうのいぢ
スニーカー文庫
(2003年・11巻~続刊中)

「ただの人間には興味ありません。この中に宇宙人、未来人、異世界人、超能力者がいたら、あたしのところに来なさい。以上。」
おそらく、ラノベ史上最も有名なセリフではないでしょうか。

個性的なキャラクターたちと、これまでのラノベよりも一気に垢抜けたキャラデザ。学園物であり、セカイ系であり、ラブコメであり、正統派SFである。
この作品をきっかけに、一般文芸読者もラノベに注目し始めました。

この10年、ハルヒよりも事件となった作品は出てきていません。

文章・イラスト両面でのキャラクター重視、萌え要素の配分、アニメなどメディアミックスの成功など……。
「ハルヒ」には特筆すべき所が多くありますが、中でも硬派なSFファンからも受け入れられた点は特に重要でしょう。
一般層や本好きに対し、深夜アニメやラノベの裾野を広げた作品の一つでもあります。

そして何より長門有希の存在。
当時、いわゆる硬派な本読みたちが長門に萌え、ラノベやアニメにはまっていく姿は、頑ななプロテスタントが「マリアはいたんだ……!」と言ってカトリックに改宗する姿を見ているようでした。

※画像は長門表紙のシリーズ3巻。長門と言えば『艦これ』になってきた風潮が許せないんだぜ。

著・橋本紡/イラスト・山本ケイジ
電撃文庫
(2003年・全6巻、短編全2巻)

「ハルヒ」のSF畑からの評価だけでなく、ジャンルレスへの動きは一般文芸方面にも向けられます。

こちらは、不治の病に侵された少女と、彼女に惹かれていく少年の物語。SFでもファンタジーでもない、本当にただただ日常を静かに描いた恋愛小説です。

文章も読みやすく、中身は完全に一般文芸作品。ラノベ以外の読者にも高く評価され、アニメ化の他、実写ドラマ化・実写映画化もされました。

00年代以降ラノベ出身の作家がSFやミステリだけでなく、一般文芸や純文学でも活躍されていますが、橋本先生はその代表と言ってもいいでしょう。

著・有川浩/イラスト・昭次
電撃文庫
(2003年・全1巻※自衛隊三部作としては他に「空の中」、「海の底」がある)

一般文芸への越境で忘れてはならないのが、有川浩先生でしょう。
今作から始まる自衛隊三部作、そして大ヒットしたミリタリーラブコメ「図書館戦争」シリーズなど、正に『大人のためのライトノベル』のパイオニアだと言えます。

電撃ゲーム大賞(後の電撃文庫大賞)からのデビューながら、有川作品で電撃文庫から出版されたのは今作のみ。「塩の街」も今では角川文庫扱いとなっています。

「この作家はハードカバーで、一般文芸読者層にアピールすべき」という出版社の意向もあったようで、「塩の街」に続く「空の中」からハードカバー単行本で出版されました。

「塩の街」も電撃文庫版発売3年後である2007年に、大幅改稿及び後日談書き下ろし付きでハードカバー化。
それが叶った背景にはハードカバー版「空の中」、「海の底」の成功と、2006年に「図書館戦争」が大ヒットしたこともあるでしょう。

有川先生については「図書館戦争」とどちらを取り上げるか悩みましたが、デビュー時からのこうした特徴的な売り出し方も考え、「塩の街」にしました。

画像:ハードカバー版(角川文庫版も同装丁)の「塩の街」

2004年 ゲームシナリオライターの台頭、人気シリーズの開始

著・奈須きのこ/イラスト・武内崇
講談社ノベルス
(2004年・上下巻)

ミステリとオカルト、そこに独特の耽美的世界観が合わさった異色作。『新伝奇』と銘打たれて発売されていましたが、確かにラノベ、ミステリ、ホラー、というよりも現代に甦った『伝奇小説』というのが最もしっくりくる作品です。

奈須きのこ先生は元々ゲームシナリオライター。

2000年前後、上遠野先生や西尾先生らの出現や、深夜アニメの隆盛などと同時に盛り上がっていたのが、同人やギャルゲ・エロゲを含むノベルゲーム業界です。
ここからの影響が、さらにラノベの世界を広げていきました。

「Fate」、「月姫」で知られる同人ゲームサークルTYPE-MOONは、同人という枠を飛び越えブームを巻き起こします。
奈須先生はそのTYPE-MOONのシナリオライター。続いて、同人ゲーム業界からは「ひぐらしのなく頃に」で竜騎士07も注目を集めます。

その他には後にアニメ「魔法少女まどか☆マギカ」の脚本を手掛ける虚淵玄、ラノベ「人類は衰退しました」の田中ロミオなどもゲームシナリオライターです。

奈須先生の商業デビューをきっかけに、ゲーム業界からの才能がラノベ業界に進出してきたのです。

画像:「ひぐらしのなく頃に」著・竜騎士07(講談社BOX・2007年刊、その後星海社より文庫化)

各ジャンルへの越境、そしてゲーム業界からの才能など、どんどん花盛りとなっていくライトノベルですが、もちろん本家も負けていません。

いわゆる「ラノベらしい」と言われる作品、現2014年にも売れ続けている人気作品も、この頃に数多くスタートしています。

著・鎌池和馬/イラスト・灰村キヨタカ
電撃文庫
(2004年・全22巻、新約10巻~続刊中、他短編2巻など。及び「とある科学の超電磁砲」シリーズ。)

異能バトル物の代表作であるメガヒットシリーズ。主人公がちゃんとかっこよくて強い、いわゆる「俺つえー系」の流れを作った作品でもあります。
また、キャラクターをどんどん増やし、そのキャラ立てで世界観を深めていく手法は、西尾先生が確立し、鎌池先生が完成させたと言えるのではないでしょうか。

シリーズ累計30巻を越えましたが、まだまだ終わる気配がありません。

著・成田良悟/イラスト・ヤスダスズヒト
電撃文庫
(2004年・13巻~続刊中)

池袋を舞台に描かれる群像劇。SFやファンタジーというより、非日常アクション活劇という感じ。

群像劇は一般的なミステリなどではよく見られる手法ですが、ラノベでは00年代になるまではあまり使われませんでした。キャラ重視の流れで、脇役にもスポットを当てやすくなったことが関係しているのではないでしょうか。
今やラノベにおける群像劇は、成田先生の代名詞のようになっていますね。

また、成田先生は自身の他作品と世界観をリンクさせて奥行きを出す作劇も得意としていますが、こちらは「ブギーポップ」の上遠野先生からの伝統。

著・ヤマグチノボル/イラスト・兎塚エイジ
MF文庫J
(2004年・全20巻、外伝全3巻※絶筆)

MF文庫Jは2002年に創刊されたレーベルです。そちらの最初の大ヒット作がこちら「ゼロの使い魔」。
どこか「スレイヤーズ!」、「オーフェン」など第一次ラノベブーム期の懐かしさを感じさせる魔法ファンタジーです。

ヨーロッパを下敷きにしたしっかりとした世界構成と、萌えも意識されたヒロイン・ルイズのキャラで、「今の時代、ファンタジーは難しい」という声を跳ね返しヒットしました。

しかし、ヤマグチ先生は闘病生活の末、2013年に病気で逝去され、作品は絶筆となってしまいました。

2005-2007年 多様化するライトノベル

03年以降は異能バトルとラブコメが二本柱になった、と書きましたが、その一方でミステリやSFだけでなく様々な要素を盛り込んだ作品も多く出版され、どれもヒットしました。
特に05~07年はそうした異色な話題作が多い時期でもあったので、一気に紹介していきたいと思います。

著・支倉凍砂/イラスト・文倉十
電撃文庫
(2006年・全17巻)

舞台は古き良き中世ファンタジー世界。ですが内容は剣も魔法もなく、その代りあるのは「貨幣」と「行商」。
そう、ラノベなんですがテーマは経済。豊作を司る狼の化身ホロと行商人ロレンスは、貨幣経済と社会、宗教などの関わりにふれ、騙し合いの世界を生き抜いていきます。

こう書くと「難しい小説?」と思う方もいるかもしれませんが、中身はホロとロレンスの軽妙な掛け合いが多く、読みやすい作品です。

猫耳で「わっち、~ありんす」と喋る、狼の老獪さと寂しがり屋の面を併せ持つ、絶妙のポイントでデレる……。ホロの可愛さにやられた人も多いはず。

著・野村美月/イラスト・竹岡美穂
ファミ通文庫
(2006年・本編全8巻、短編全4巻、外伝全4巻)

物語を『食べちゃうくらい』愛している――。主人公はそんな文学少女・天野遠子。彼女が文学作品から読み解くのは果たして推理か、妄想か。

今では「ビブリア古書堂」が有名ですが、こちらも実在の文学作品をモチーフにした作品です。
例えばシリーズ1巻「“文学少女”と死にたがりの道化」は、『恥の多い生涯を送ってきました。』の一文から始まります。(もちろん知ってるよね?)

ミステリではあるものの、謎解きよりも心情描写に重きが置かれています。絵柄も透明感があり、全体に少女小説の趣が強い作品です。

著・入間人間/イラスト・左
電撃文庫
(2007年・本編全10巻、短編全1巻)

青春暗黒皆殺しミステリ。
叙述トリックの多用や、ゲームや漫画からの引用、非常にくどくて読みにくいのに何故か癖になる文体。西尾先生らメフィスト系の影響をモロに受けた作家の代表と言えるでしょう。

内容が血みどろ過ぎるためか、根強い人気作にも関わらずアニメ化はされておらず、メディアミックスは実写映画化のみ。実写のみーくんは何とブレイク前の染谷将太です。

裏表紙とか表紙の裏とかが毎度毎度らぶりーなんだよなぁ……嘘だけど。

著・紅玉いづき/イラスト・磯野宏夫
電撃文庫
(2007年・全1巻)

ラノベレーベルである電撃文庫からの発売にもかかわらず、表紙が一般文芸風であること、一切挿絵が無いことでも話題となりました。
おそらく、作者や出版社側はできるだけ先入観なしに読んでほしかったのではないかと思います。

というわけで、この作品に関してはあまり解説やネタバレはやめておきます。

ただ、この作品が今も残っていて、ラノベの歴史を語る際たびたび取り上げられるのは、そうした話題性ではなく、内容の力によるものです。それは間違いありません。

著・田中ロミオ/イラスト・山崎透
※7巻以降は戸部淑がイラストを担当。その後1~6巻も戸部淑イラストの新装版が出し直された。
ガガガ文庫
(2007年・全9巻)

人類が緩やかに衰退していく世界で、代わりに地上を支配(?)する『妖精さん』と主人公たちの交流を描いた物語。
完っ全にSFです。なぜハヤカワから出なかった!?というくらいのSFっぷり。

作者の田中ロミオ先生は元々ゲームシナリオライター。
理系な話でも分かりやすく、すらすらと入ってくる文章力には脱帽です。可愛い一人称で書かれた地文も味わいがあり、絶妙に「おかしな未来」を感じさせてくれます。

※画像は旧版・山崎透先生のイラストです。

ガガガ文庫は2007年創刊のレーベル。大手出版社小学館によるラノベレーベルです。

他のレーベルに比べて挑戦的な作品が多く、「人類は衰退しました」のようなガチSF、浅井ラボ先生の暗黒ラノベ「されど罪人は竜と踊る」(※スニーカー文庫から移籍)など一風変わった話題作を出し続けています。
特に新人賞に関しては、毎回割とヤバい人を輩出してます。「下ネタという概念が存在しない退屈な世界」の赤城大空先生とか。

最大手角川系列(電撃、スニーカー、富士見、ファミ通、MF文庫J、メディアワークス文庫)へのアンチとしても、講談、集英とともに頑張っていただきたいところ。

著・井上堅二/イラスト・葉賀ユイ
ファミ通文庫
(2007年・本編全12巻、短編は現在5巻~続刊中)

試験勉強×召喚獣バトルのドタバタラブコメディ。
とにかく会話のギャグ要素と、キャラクターで読まされる作品です。他の作品がドラマだとしたら、「バカテス」は舞台コントや漫才という感じですね。

異能バトルや、珍しいジャンルの作品がヒットしてきたラノベ市場ですが、00年代後半になりラブコメ黄金期に突入します。

「バカテス」もそうですが、アニメ化・漫画化などメディアミックス、『萌え文化』との相乗効果もあり、様々なヒット作が産まれました。

2008年 ラブコメ黄金期

著・伏見つかさ/イラスト・かんざきひろ
電撃文庫
(2007年・全12巻)

ラブコメ黄金期を代表する大ヒット作、通称「俺妹」。妹萌え作品の代表のように語られがちですが、実際は安直な妹萌えへのアンチを示した作品。

平凡な兄と、雑誌モデルもしている美人な妹。妹には実はオタク趣味があったと発覚してから、険悪だった兄妹の関係は変化し始め……。

というストーリーなのですが、設定だけとればとてもリアルな話なんですよね。異能力も関わらないし、ある日突然不思議な美少女が現れるわけでもない。
現実的な兄妹関係がだんだん戯画的に変化していくのを丁寧に描いたのが、ヒットの理由ではないでしょうか。

ヒロインである妹・桐乃が見た目ギャルなのにオタク趣味という設定を活かすためか、桐乃以外のヒロインがみんな比較的地味めなのも特徴的です。

ラブコメは原作スタート時よりも、アニメ化で爆発的に売れる傾向が特に強く、「俺妹」も第一期アニメ化された2010年以降の方が人気が高まった印象。

また、「俺妹」は文章型タイトルを定着させた作品でもあります。
「ブギーポップは笑わない」など過去にも文章型タイトルは多いですが、流行を作った意味では「俺の妹がこんなに可愛いわけがない」でしょう。

画像:PSP版ゲーム「俺の妹がこんなに可愛いわけがない」
ヒロインみんな居る画像これくらいしか無かったんだぜ。

著・犬村小六/イラスト・森沢晴行
ガガガ文庫
(2008年・全1巻 ※その後シリーズ化し、「~への恋歌」(全5巻)、「~への夜想曲」(全2巻)、現在「~への誓約」(5巻~続刊中)

ラブコメ勢の大ヒットの裏で、個性的な作品もまだまだヒットを続けます。

「とある飛行士~」シリーズは、ジブリ、特に「ラピュタ」や「紅の豚」が好きな方にはぜひお薦めしたい物語です。
ハイファンタジーですが、前述したジブリなどに近いジュブナイル的な雰囲気で、大人や一般文芸好きな方にも十分読みやすい作品。

出版当初は、読者の口コミや書店員さんのお勧めなどで話題となり火が付きました。

2009年

著・平坂読/イラスト・ブリキ
MF文庫J
(2009年・本編10巻~続刊中、他番外編1巻など)

タイトルから平仮名の部分だけ取って、通称「はがない」。ハーレムラブコメの大ヒット作です。

色んなタイプの女の子が集まって、どの子もなぜか主人公と親しくなって……というベタな展開なんですが、タイトルからも分かるように、『非リア』、『ぼっち』という時代の空気を取り入れた作品です。

「俺妹」もそうですが、この時代のラブコメには圧倒的強者が出てこないのが特徴です。才色兼備に見えるヒロインもみんなどこか残念。
それが『萌え』としても機能するようにキャラが作られています。

残念ゆえに自信が無く、またそれがキャラクターの魅力・萌えとなる。この構図は00年代後半まであまり見られなかったキャラ作りです。

よくできていますが、こうした物語はシリアスになると一気に鬱化します。軽いように見えて、扱っているテーマが思春期のアイデンティティだからシャレにならない。

翌10年に一般文芸で「桐島、部活やめるってよ」が大ヒットしますが、実は描いている時代の空気や心情は、「はがない」など『残念系』と近いものが根底にあると思います。

画像:「僕は友達が少ない」最新10巻
まあ何が言いたいかって、お願いだから夜空をこれ以上不幸にしないで、という話です。

著・逢空万太/イラスト・狐印
GA文庫
(2009年・全12巻)

なんとなくラブコメかな?と思っている方は半分不正解。漫画やゲーム、SFや文学作品といった元ネタのオマージュをこれでもかと突っ込んだパロディコメディです。

ニャル子さんの元ネタは「クトゥルフ神話」のニャルラトホテプ。この他にもラブクラフトネタは出てきますが、それ以外にも中二病をくすぐるネタが満載です。

00年代から、ネットスラングやサブカルチャーからの引用、孫引きはラノベでのお約束ネタとして消費されています。ニャル子さんはある種そうした『コピペ・コラージュ文化』の決定版。

フリッパーズギターやな!と思ったあなたは30代。

著・川原礫/イラスト・abec
電撃文庫
(2009年・本編15巻~続刊中、SAOプログレッシブ2巻~続刊中)

仮想ゲーム世界での戦いを描いたSFバトル。発売5年で1000万部を超え、まだまだ売れ続けています。
頭文字をとって略称はSAO(これは作中の仮想ゲーム世界の名称でもあります)。

現実でのオンラインゲームの流行、壮大な世界観、『俺つえー』で女性人気もある主人公キリト、萌え度の高いヒロイン・アスナ、と売れた要因を挙げればキリがありませんが、とにかく2000年以降おそらく一番売れているラノベ。

ある意味、「ブギーポップ」からのSFローファンタジーの時代を終わらせた作品です。

2010年 ブームの肥大化、忍び寄る時代の変化

著・橙乃ままれ/イラスト・水玉螢之丞、toi8
エンターブレイン(単行本)
(2010年・全5巻)

「本来宿敵のはずの勇者と魔王が手を取り合ったら?」という発想で描かれた物語。
元々ネット上の2ちゃんねるに掲載された、会話文のみの小説(SS)でした。

ファンタジーのテンプレを「もしもこうだったら面白いかも」という発想で脚色し、ネット上で話題に。それが出版社の目に止まり単行本化されました。

実は前述の「SAO」も元々はネットで公開されていた小説でした。
新しい才能は、ネットからも続々と生まれてくるようになったのです。

「SAO」のところで、『ある意味、「ブギーポップ」からのSFローファンタジーの時代を終わらせた作品』と書きましたが、2010年の時点でライトノベルは再び停滞期に入ったと思います。

「SAO」や「とある禁書~」などメガヒットシリーズは2014年現在も売れ続け、それに続く同ジャンルのヒット作も生まれていますが、目新しいヒット作は正直なくなってきたと思います。
これは90年代後半に「スレイヤーズ!」や「オーフェン」が売れ続けながらも、ジャンルとしては停滞してしまっていた時代とよく似ています。

ただし90年代後半とはライトノベルの市場規模が全く違います。肥大化したラノベは、一般文芸にも侵食しながら、その形を変えていくことになります。

2011-2014~ 変革期・ライトノベルの特異点

2010年前後から、一般文芸小説でイラスト装丁の単行本が一気に増え始めます。ラノベほどあからさまではないものの、作中人物をイメージさせるイラストが表紙になり、内容もライトでキャラクター性の強い小説がヒットします。

これはラノベを含めたオタク市場の拡大を、一般のエンタメ小説側が無視できなくなってきたことを表していると言えるでしょう。

もちろんそれまでにも、一般文芸内部で、有川浩先生の「図書館戦争」シリーズ、「夜は短し歩けよ乙女」(著・森見登美彦 角川書店刊)、「鴨川ホルモー」(著・万城目学 産業編集センター刊)といった作品が布石になっていたことは間違いありません。

そこにラノベ市場の巨大化があり、今まで明らかだったジャンルの壁が00年代を通して徐々に崩れていったのだと思います。

そして大きな変化がラノベ側から起こります。それが、メディアワークス文庫の創刊です。

画像:「夜は短し歩けよ乙女」絶対、文庫版より単行本版の方が装丁いいよね。

メディアワークス文庫は電撃文庫を出版するアスキー・メディアワークスが、『大人向けラノベレーベル』として2009年に創刊したレーベルです。

有川浩先生、入間人間先生などを筆頭に刊行され、書店にも『ラノベコーナーではなく、一般文庫コーナーに置いてほしい』と強く念を押して展開します。
初めの1~2年は、売り手である書店員や買い手である読者からも、扱いに困る文庫として見られていましたが、徐々に浸透し、ラノベと一般文庫の境目を確信犯的に、かつ革新的に、無くしていきます。

画像:「探偵・花咲太郎は閃かない」(著・入間人間 メディアワークス文庫 2009年)
MW文庫創刊ラインナップの一つ。

そして2011年にメディアワークス文庫から、「ビブリア古書堂の事件手帖」という大ヒット作が生まれます。
この時、ラノベとミステリやSF、純文学などの一般文芸との壁はやっと足元まで破壊されます。もちろん、ラノベに対する蔑視やジャンル分け自体が無くなったわけではないですが、それは明らかな特異点(シンギュラリティ)だったと言えるでしょう。

ここからは、そうして変革した後のラノベについて取り上げたいと思います。
作品としては一般的なラノベレーベルからは外れるものがメインとなりますが、もうちょっとですので、良かったら最後までお付き合いください。

では最終章、『ライトノベル史・変革期編』です。

2011年 ビブリア古書堂は『ラノベ』だったのか

著・三上延/イラスト・越島はぐ
メディアワークス文庫
(2011年・5巻~続刊中)

ご存知、大ヒットした連作短編ミステリです。実在する本をテーマに謎解きをするストーリーに加え、またチョイスされる本の渋さ(ヤングの「たんぽぽ娘」とかね!)も話題となりました。

売れた層としては一般文庫の読者だと思いますが、その人たちはこの本を、『ラノベ』もしくは『大人向けラノベ』だと思って買ったでしょうか?
多分そんなこと気にしてないですよね。そこにこの本のヒットの意義深さがあると思います。

それはそうと、実写ドラマ版だけは絶対に絶対に絶対に許さない。

著・架神恭介/イラスト・左
講談社BOX
(2011年・全1巻※同世界観の他作品はあり)

異能バトルを極限まで突き詰めて、ご都合主義を一切排したらどうなるのか、という実験作。

超エログロネタが多いですが、「どうせ主役が勝つんでしょ」と異能バトルに飽き飽きしている人にお薦めです。ただしかなりの変態耐性が無いと読み通せないかも……。

元々ネット上TRPGでのやり取りから生まれた作品という経緯もあり、一切の二次創作を作者が許可しているという権利上も非常に珍しい作品。
これからの創作物に対する考え方・扱い方においても、考えさせられる作品です。

2012年 ニンジャが出て殺す!

著・ブラッドレー・ボンド、フィリップ・ニンジャ・モーゼズ
訳・本兌有、杉ライカなど、ほんやくチーム
イラスト・わらいなく
エンターブレイン(単行本)
(2012年・10巻~続刊中)

Twitter上で翻訳され話題を呼んだ、アメリカ人によるサイバーパンク・ニンジャ活劇。

「ドーモ、ミニットマン=サン。ニンジャスレイヤーです」
礼儀正しいオジギの後に繰り広げられる戦い。
「イヤーッ!」という叫びとともに投げられるスリケン(手裏剣)。炎を巻き上げるカトン・ジツ(火遁の術)。しかし研ぎ澄まされたカラテの前には、無力なのだ……。

Twitter経由で逆輸入された21世紀の伝奇小説なのだ。

2013年 ネットからの才能

著・三秋縋/イラスト・E9L
メディアワークス文庫
(2013年・全1巻)

「寿命を買い取ってもらった。一年につき、一万円で。」
元々は、そうしたタイトルでネット上で発表され、話題を呼んだ作品です。

少し教訓めいたところもありますが、不思議な寂しさと温かさのある寓話的ファンタジーです。「最後の一葉」で有名なO・ヘンリの短編集みたいな感じですね。

書籍デビュー作は「スターティング・オーヴァー」ですが、より完成度が高く、ネット時代から評判が高かったのはこちらかな、と思って「三日間の幸福」をチョイスしました。

2014年 ラノベと、その未来。

最後に再び、話を本来の『ライトノベル』に戻しましょう。

一見売れ続けているように見えて、『ライトノベル』ジャンルとしては再び停滞し、また一般文芸とのボーダーレスが進んだことで、才能の流出も激しくなっています。

巨大な市場になったことで、作品数も増え、爆発的にヒットしなくてもアニメ化も比較的簡単にされるようになりました。
しかし、異能バトルやハーレムラブコメなどテンプレ的な作品では、もはや過去のヒット作を越えることは難しい。かと言って、個性的な作品は膨大な市場に埋もれてしまい、読者に見つけてもらいにくい。
15年前の停滞期よりも、市場が拡大した分問題点も大きくなっていると思います。

もちろんその中でも、オリジナリティにあふれ、一定の本好き・ラノベ好きに注目されている作家もいます。

例えば、「東雲侑子は短編小説をあいしている」の森橋ビンゴ先生や、「耳刈ネルリ御入学万歳万歳万々歳」の石川博品先生。(ともにファミ通文庫)

しかし、そうした作品がより広い読者に届くには、まだ難しいのが現状です。多くの読者はやはり売れているものや、アニメ化されたものにまず手を伸ばしています。

画像:「この恋と、その未来。」著・森橋ビンゴ(ファミ通文庫 2014年)
「東雲侑子~」の森橋先生最新作。性同一性障害について真っ向から書いています。『萌え』に対するアンチラノベとしても期待大です。

上遠野先生や西尾先生が出てきた時に、ラノベ全体の精神年齢は上がったと思いました。しかし、残念ながらそれはまた下がりつつあるように思います。

作り手側はニッチな作品も届ける宣伝面での戦略が必要ですし、読み手側にも新しい才能を探そうとする好奇心が必要でしょう。
想像もつかない物語を読んでみたい!と読者ももっと冒険してほしいと思います。

画像:「後宮楽園球場」著・石川博品(スーパーダッシュ文庫 2013年)
「耳刈ネルリ」の石川先生最新作。皇帝暗殺のため女装して後宮(ハーレム)に入り込んだ少年が、そこで美女たちとくんずほぐれつ野球をするという、ダジャレが転じて歴史絵巻になっている怪作。

2014年9月には、ついに一般文芸最大手の新潮文庫も大人向けラノベレーベル『新潮文庫NEX』を立ち上げました。
こうした小説は、数年後、数十年後には日本の新しい小説のスタンダードにまで発展するでしょうか。

画像:「いなくなれ、群青」(著・河野裕 新潮文庫NEX 2014年)
河野先生はスニーカー文庫で「サクラダリセット」をヒットさせています。
非常に美しい文章を書く作家の一人で、新潮NEXの創刊ラインナップに名前を見つけた時も納得でした。文芸っぽいもんね。
本当は「サクラダリセット」も歴史の中で取り上げたかったんですが、河野先生のことはこちらで新潮NEXに絡めて紹介することにしました。

ライトノベルの歴史は、今までに無かった面白い小説を創造しようとする歴史だったと思います。その中にはここで紹介しきれなかった数々の名作もあれば、ジャンルへの蔑視・誤解を助長するような内容の薄い作品も山のようにありました。

そうやって玉石混交でも「もっと面白い小説を!」と進んでこれたのは、ジャンル自体がまだ幼かったからできたことだとも思います。

でも、純文学やミステリやSFも、そうした試行錯誤の歴史を繰り返し、巨大な一大ジャンルになったのです。それまでは「あんなものは文学ではない」と切り捨てられ、苦い思いをしてきています。

ライトノベルもようやく『幼年期の終わり』を迎えつつあるのではないでしょうか。

長い長い、普通のまとめに比べると「境界線上のホライゾン」くらいボリュームのあるまとめにも関わらず、最後まで読んで下さった方は本当にありがとうございました。

『ライトノベル』というのは定義もジャンル分けもすごく難しく、個人個人で見解も大きく異なります。このまとめを見て「全然納得いかない」、「なんであの作品が入ってないんだ」、「こいつの言ってることは独りよがりだ」と思う方もたくさんいらっしゃると思います。

実際の所、例えば女性向けラノベについては、私の知識不足からほとんどふれられていません。

逆に、盛り込みたかったけれど削った話もあります。(村上春樹とラノベの相似点とか)

異論・反論はあってしかるべきです。そうした議論を経て、『ライトノベル』というジャンルが文学的にもっと正当に評価される日が来ると良いな、と願います。

だって、浮世絵や漫画と同じで、異形ゆえに愛おしい文化じゃないですか。

本当に読んでくださってありがとうございました。
遠子先輩じゃないですが、私は小説が大好きです。さすがに食べませんけど。

――食べるなら、ホロと一緒に荷馬車の上で林檎がいいです。

(まとめ本編 最終更新・2014/9/5)
※作品データについては、すべて2014年8月末時点のものです。

まとめ本編にて詳しく取り上げた作品一覧

1987-1997年
「ロードス島戦記」水野良
「風の大陸」竹河聖
「フォーチュンクエスト」深沢美潮
「宇宙一の無責任男」吉岡平
「スレイヤーズ!」神坂一
「極道(ゴクドー)くん漫遊記」中村うさぎ
「〈卵王子〉カイルロッドの苦難」冴木忍
「十二国記」小野不由美
「爆れつハンター」あかほりさとる
「それゆけ!宇宙戦艦ヤマモト・ヨーコ」庄司卓
「デルフィニア戦記」茅田砂胡
「魔術師オーフェン」秋田禎信
「タイム・リープ あしたはきのう」高畑京一郎
「月光魔術團」平井和正
「召喚教師リアルバウトハイスクール」雑賀礼史

1998-2002年
「ブギーポップは笑わない」上遠野浩平
「フルメタル・パニック!」賀東招二
「マリア様がみてる」今野緒雪
「キノの旅 -the Beautiful World-」時雨沢恵一
「イリヤの空、UFOの夏」秋山瑞人
「ネガティブハッピー・チェーンソーエッヂ」滝本竜彦
「クビキリサイクル」西尾維新
「灼眼のシャナ」高橋弥七郎

2003-2010年
「涼宮ハルヒの憂鬱」谷川流
「半分の月がのぼる空」橋本紡
「塩の街 wish on my precious」有川浩
「空の境界」奈須きのこ
「とある魔術の禁書目録(インデックス)」鎌池和馬
「デュラララ!!」成田良悟
「ゼロの使い魔」ヤマグチノボル
「狼と香辛料」支倉凍砂
「“文学少女”シリーズ」野村美月
「嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん」入間人間
「ミミズクと夜の王」紅玉いづき
「人類は衰退しました」田中ロミオ
「バカとテストと召喚獣」井上堅二
「俺の妹がこんなに可愛いわけがない」伏見つかさ
「とある飛行士への追憶」犬村小六
「僕は友達が少ない」平坂読
「這いよれ!ニャル子さん」逢空万太
「ソードアートオンライン」川原礫
「まおゆう魔王勇者」橙乃ままれ

2011-2014年
「ビブリア古書堂の事件手帖」三上延
「戦闘破壊学園ダンゲロス」架神恭介
「NINJA SLAYER ニンジャスレイヤー」ブラッドレー・ボンド、フィリップ・ニンジャ・モーゼズ
「三日間の幸福」三秋縋

※すべて紹介順。敬称略。

まとめ本編にて言及した作品及び作家一覧

「時をかける少女」筒井康隆
「ビアンカ・オーバースタディ」筒井康隆
「柳生忍法帖」山田風太郎
「南総里見八犬伝」滝沢馬琴
「妖精作戦」笹本祐一
「ミニスカ宇宙海賊」笹本祐一
「グイン・サーガ」栗本薫
「ダーティ・ペア」高千穂遥
「幻魔大戦」平井和正
「銀河英雄伝説」田中芳樹
「吸血鬼ハンターD」菊池秀行
「アルスラーン戦記」田中芳樹
「マルドゥック・スクランブル」冲方丁
「天地明察」冲方丁
「失踪HOLIDAY」乙一
「星界の紋章」森岡浩之
「夏と花火と私の死体」乙一
「恥知らずのパープルヘイズ」上遠野浩平
「JORGE JOESTAR」舞城王太郎
「NHKにようこそ!」滝本竜彦
「フリッカー式」佐藤友哉
「ディスコ探偵水曜日」舞城王太郎
「このライトノベルがすごい!」
「図書館戦争」有川浩
「ひぐらしのなく頃に」竜騎士07
「されど罪人は竜と踊る」浅井ラボ
「下ネタという概念が存在しない退屈な世界」赤城大空
「桐嶋、部活やめるってよ」朝井リョウ
「クトゥルフ神話」ハワード・F・ラブクラフト
「夜は短し歩けよ乙女」森見登美彦
「鴨川ホルモー」万城目学
「探偵・花咲太郎は閃かない」入間人間
「スターティング・オーヴァー」三秋縋
「東雲侑子は短編小説をあいしている」森橋ビンゴ
「耳刈ネルリ御入学万歳万歳万々歳」石川博品
「この恋と、その未来。」森橋ビンゴ
「後宮楽園球場」石川博品
「いなくなれ、群青」河野裕
「サクラダリセット」河野裕
「境界線上のホライズン」川上稔

※言及順・敬称略

まとめ本編にて名前のみ言及した作家

新井素子
氷室冴子
神林長平
村山由佳
小川一水
桜庭一樹
清涼院流水
京極夏彦
森博嗣
虚淵玄
村上春樹

※言及順・敬称略

参考リンク

以下、2014年10月12日・追記

ひと夏をかけて作り、アップ後もアクセスの少なかったこのまとめですが、10月10日を境に、大変多くの方に読んでいただけたようで、非常に驚いています。
同時に、本当にたくさんの方がライトノベルを、本を愛してくださっているのだと感激しました。

例えるなら、『ある日、爆弾がおちてきて』という気分です。

本来、一度作成したまとめに対し、後からエクスキューズを行うことは公平性の点からすべきではないと思っています。
しかし、「ラノベへの理解・論議が深まってほしい」という思いで作成したまとめだということもあり、ならば皆様のネット上でのご指摘にしっかりお答えすべきではないかと考え、一度だけ追記をさせていただくことにしました。

蛇足であることは重々承知ですが、ラノベでいうところの『あとがき』のようなものだと思って、少し肩の力を抜いて読んでいただけると幸いです。

画像:「ある日、爆弾がおちてきて」著・古橋秀之(電撃文庫 2005年)
古橋先生ファンの皆様、歴史の中で取り上げられなくてごめんなさい!

ネット上のご意見・ご指摘を見ることは、厳しいものも含め、皆様とラノベについて語っているような楽しさがありました。
そうしたツイートや、はてなブックマークでのご指摘にお答えしていきたいと思います。

ただ、本編よりかなり趣味的かつゆるい感じなので、皆様もお茶でも飲みながら軽く読んで頂けたらと思います。
ですので、さすがにもう長い!疲れたわ!という方は、遠慮なくゆっくりおやすみくださいね。

では、蛇足です。

1.コバルト文庫をはじめとした、少女小説・女性向けラノベへの言及が薄い・ほぼ無い点

最も多かったご指摘がこちらです。
まとめ本編の最後でもふれているように、私自身の知識不足が理由です。申し訳ありませんと頭を垂れる他ありません。

作成時にも、新井素子先生や氷室冴子先生、のちに本格中世歴史小説へと移行する藤本ひとみ先生、また桑原水菜先生の「炎の蜃気楼」などは深く取り上げるべきか迷ったのですが、中途半端な知識で扱うべきではないと判断しました。

画像:「あたしの中の……」著・新井素子(コバルト文庫 1981年)
あえてラノベっぽい新装版の表紙で。いや、昔の表紙は怖いですって。

多くのご指摘の通り、特に新井素子先生は少女小説重要作家という面からも、黎明期重要作家という面からも深く取り上げるべきだったと反省しきりです。

しかし、少女小説・女性向けラノベまで範囲を広げてしまうと、同時に少女漫画の勃興や、後に多様化していく少女系レーベルにもふれざるを得ません。

コバルト文庫とマーガレットなど少女漫画誌の相乗効果、後の腐女子文化との関係、ビーズログ文庫・ティアラ文庫などの隆盛、BL系文庫の拡大などなど、確かにどれも面白い話だと思うのですが、いかんせん私の知識量では手に負えないと感じ、全体のボリュームやバランスも考えた末、省くことにしました。

もう少し体系的な知識があれば、近年のものでは、

谷瑞恵先生の「伯爵と妖精」(コバルト文庫)、雪乃紗衣先生の「彩雲国物語」(※画像)、喬林知先生の「今日からマ王!」、清家未森先生の「身代わり伯爵シリーズ」(全て角川ビーンズ文庫)、などは取り上げたかったです。

他にも、講談社ノベルスながら少女小説の趣の強い、香月日輪先生や高里椎奈先生も。

なので、女性向けラノベについてはどなたか詳しい方、まとめ作ってください!!読みます!!

2.ソノラマ文庫をはじめ、ラノベ黎明期への言及が薄い点

こちらも多かったご指摘です。おそらく70~80年代作品をリアルに体験なさっている方や、SF好きの方からのご指摘が多かったのではないかと思います。
こちらは、私の知識不足に加え、世代感覚と全体のバランスが理由です。

私は80年生まれで、93年頃に「ロードス島戦記」や「フォーチュンクエスト」に出会い、ラノベの魅力にやられました。
後追いで、平井和正先生、田中芳樹先生、菊池秀行先生、といった少し上の世代をさかのぼって読んだため、やはりリアルタイムの方には70~80年代の知識・体験で到底及ばない部分があります。

また、ラノベの歴史を俯瞰した時に、90年代以前の話に比重を置きすぎると、自分よりも若い世代の方には読み辛さが勝ってしまうのではないか、という懸念もありました。

画像:「吸血鬼ハンター”D”」著・菊池秀行(ソノラマ文庫 1983年)
ファイナルファンタジーはⅥまでしか認めない。理由は分かるな?

あくまで『ライトノベルの歴史』に焦点を当てるという意味でも、まだ『ライトノベル』という言葉が生まれる前の時代よりも、現2014年に直接つながる90~00年代を中心に語るべきだと思い、70~80年代の話は前史としてあえて短めにまとめた部分もあります。

もちろん、この時代に優れた作家・作品が多いのは紛れもない事実です。

特に00年代以降のライトノベルしか知らないという世代の方には、このまとめをきっかけに、70~90年代の名作と出会っていただけたら、それ以上の喜びはありません。

ついでに、そこから海外SFまで行ったりすると、好きな作家の元ネタとか分かるかもしれませんよ?
古本屋でサンリオ文庫を見つけて一喜一憂するような大人への扉は、もう半分以上開かれています。NHK(日本・古本屋巡り・協会)へようこそ!

そして、黎明期に関し散見された「平井和正への言及が無さすぎない??」というご指摘について。

驚くとともに嬉しかったのですが(私は平井先生大好きです)、平井先生については96年のところで「月光魔術團」で取り上げています。

「どうして黎明期のウルフガイや幻魔大戦や8マンや超革命的中学生集団じゃねーんだよ!!」という方も多いと思いますが、ごめんなさい、趣味です。
「月光魔術團」が一番好き、っていうか人美が超好きなんです。

そのため、黎明期超重要作家であることは承知の上で、70~80年代のところではわざと軽くふれるだけにして、96年に取り上げました。

平井先生ファンの皆様、すみません!

画像:「アンドロイドお雪」著・平井和正(立風書房 1969年 ※画像は後に出た角川文庫版)
「平井和正について書いてない!」とご指摘くださった方は非常に多く、みなさん「ウルフガイは?」、「超革命的中学生集団は?」、「8マンは?」と、言ってくれたのに……。なんでや、なんで誰もお雪は挙げへんのや……。

もう一度言うが、

鷹 垣 人 美 は 俺 の 嫁 ! !

あ、あと、このまとめを見た出版関係者さま!!どことは言いませんが特にKDKWグループさま!!

「月光魔術團」の書籍版を全3部・37巻まで含めて紙書籍で復刊してください!
第3部が電子書籍と駿台曜曜社版でしか手に入らないのは歴史的損失です!!

イラストはもちろん泉谷あゆみ先生のままでお願いします!!

画像:「月光魔術團」より鷹垣人美。
ヒロインでありヒーローであり、名脇役であり、いつの間にか主人公。
女になったり、男になったり、ジゴロになったり、大忙しのセックスシンボルです。

※ 個人的な再追記(2015年1月18日)

非常に個人的な再追記です。
(本筋と外れますので、興味のない方は読み飛ばしてくださいね)

2015年1月17日、平井和正先生が逝去されました。

「ウルフガイ」、「幻魔大戦」、「超革命的中学生集団」、「地球樹の女神」、「ボヘミアンガラス・ストリート」……数々の名作を思うと、正直言葉がでません。

高校生の頃、友達に「月光魔術團」の1巻を借りて読み、すぐ自分で買いに走り、その後父の古い蔵書の中に元祖「ウルフガイ」を見つけて……。
平井先生との出会いがなければ、私はこのまとめを作ることもなかったと思います。

実は、つい一週間ほど前に「超革命的中学生集団」を読み返していました。
「平井先生、ほんっと昔から性転換ネタ好きだよな~」と、一人でニヤニヤしながら読んでいました。(私が持っているのは、永井豪先生イラスト版ではなく、生頼範義先生イラスト角川版です)

70、80年代に大活躍された後、90年代後半ライトノベルが盛り上がって以降は、個人ホームページでの活動を中心にされていたため、読んだことがないという若い読者の方も多いと思います。
21世紀のライトノベルの構築された緻密な面白さとは違うため、今の10~20代の方が読むと古臭く感じるかもしれません。

でも、近年のライトノベルやエンターテイメント小説にはなくなってしまった『強烈な毒』が平井作品にはあります。

理不尽で暴力的で性的で、とにかくハチャメチャで。時につじつまが合っていなくて。
それでも強烈に面白い。

小説って、何書いてもいいんだよな。子どものまんまの気持ちで、中学生ぐらいの魂のまんまで書いて、読んでいいんだよな。そう思わせてくれる偉大な作家です。

平井先生がいらっしゃらなければ、現在のライトノベルの隆盛は無かったと私は思います。

「子どもには夢を与えたい」
なにを吐かしてるんじゃ。夢とは根も葉もないイリュージョンでいいのか?(中略)口先ばかりで愛やら平和やら人間性への信頼のイリュージョンを説くエセ・ヒューマニストども、死んでしまえっ

出典「超革命的中学生集団」あとがき より引用

平井和正先生のご冥福を心よりお祈りいたします。
地獄でペンを握って、「やっぱり人類は愚かだ!!」と大笑いしていてください。

個人的な再追記、失礼しました。
以下、再び皆様からご指摘いただいたご意見についての追記まとめです。

3.『小説家になろう』など、近年のネット小説への言及が薄い点

『小説家になろう』やボカロ小説、SSをはじめとした、近年のネットから発生した小説にもっと言及してほしかったとのご指摘もありました。

これは、まだ歴史として語るには早すぎると思ったことが理由です。

『小説家になろう』が話題となったのは、ここ2年ほどだと思います。
確かに新潮文庫NEX創刊ラインナップにも、神西亜樹先生の「坂東蛍子、日常に飽き飽き」(※画像)という、『小説家になろう』から発見された作品もあり、その影響力は商業ラノベにも及んできています。

しかし、これがどう結実するかを見極めるにはあと数年が必要だと私は感じています。

そのためネット小説に関しては、「まおゆう」や「三日間の奇跡」のあたりで少し言及する程度に留めました。
ただ、『小説家になろう』の存在自体への言及、リンクなどは貼っておくべきだったと反省しています。というわけで、今更ながら以下リンクです。

4.後半が駆け足(近年の学園物・萌えコメディへの言及が薄い点)

これも、歴史として語るには早すぎるというのが理由です。

まとめを作成しながら、2010年まではギリギリ俯瞰して見ることができると感じました。しかし、2011年以降出版の作品は、現在ヒットしていても5年後、10年後どういった評価をされているかまだ判断がつきにくい。
そう感じたため、2011年以降はあまり作品数を増やさず、ヒット作ではなく、オリジナリティが強いものを中心に取り上げる形にしました。

画像:「魔法科高校の劣等生」著・佐島勤(電撃文庫 2011年)
近年の代表的ヒット作ですね。

5.なんであの作家・作品が欠けとんねん!問題

ごめんなさい。

「ブラックロッド」も「キーリ」も「とらドラ」も「俺ガイル」も「魔界都市新宿」も「陰陽師」も「戦闘妖精雪風」も「おもいでエマノン」も「ドクロちゃん」も「ルナルサーガ」も「サーラの冒険」も「GOSICK」も「僕の妹は漢字が読める」も「まぶらほ」も「よくわかる現代魔法」も「さくら荘のペットな彼女」も「ココロコネクト」も、他にも色々……、

取り上げたかったです!!ごめんなさい!!

この他にも、最後まで、西尾先生は「戯言」と「物語」両方入れるべきか? 秋山先生は「イリヤ」だけじゃなく「猫の地球儀」も……、上遠野先生は「虚空シリーズ」も……と迷ったり、

「悪の娘」(著・悪ノP)などのボカロ小説から野尻抱介先生の「南極点のピアピア動画」(※画像)までつなげて、初音ミクとSFの関係まで展開しちゃう?でもハヤカワだしなー、とか考えたり……。

さらには、村上春樹とラノベの関係性についても書きたい!と考えたり。

新潮社さま、もしも村上春樹がラノベ風表紙に改装される日が来たら(近い将来あるような気がしますが)、ぜひ「世界の終わりとハードボイルドワンダーランド」は「みーまー」や「ささみさん」の左先生のイラストでお願いします。

このイラストの子とか、よく食べてセックスする図書館司書のおねーさんにピッタリじゃね?

画像:「季刊ゼラチン2011春号」。漫画誌というよりイラスト誌という感じでしたが、廃刊(※訂正・正確には後継誌「ひめシリーズ」に引き継がれました)。
「みーまー」1巻は左先生のジャケを見た瞬間、レジに走った思い出があります。

とにかく、色々な作品、作家、要素を、泣く泣く削りました。

まとめ本編は、読みやすさを保ちつつも、最低限の歴史を追うことが可能な文章とボリュームを心がけたつもりです。
(その代り、追記では思いっきり趣味的な所まで書かせて頂きました)

納得が行かないという方も多いと思いますが、ご容赦ください。

そしてこのまとめを見て「面白い!」と思ってくださった方は、「これが入っていないぞ!」とご指摘くださっている方が挙げられている作品にも、ぜひ手を伸ばしてみてください。そこにこそ、きっとさらに新しい読書体験があります。
私も、ご指摘から「あー、確かにそこ読んでないっす!面白そう!」と思ったものは読んでいこうと思います。

あとがきのようなもの、と言いつつかなりのボリュームになってしまいました。

最後に賛否両論含め、このまとめを読んで下さった皆様、そして私に多くの素晴らしい作品を体験させて下さった作家の皆様への謝辞で、締めさせて頂きたいと思います。

本当に、ありがとうございました。

ヘビーな蛇足でしたね、蛇だけに。

(追記最終更新・2014/10/12)
(平井和正先生逝去に関する再追記更新・2015/1/18)

追記にて言及した作家・作品

「ある日、爆弾がおちてきて」古橋秀之
「あたしの中の……」新井素子
藤本ひとみ
「炎の蜃気楼」桑原水菜
「伯爵と妖精」谷瑞恵
「彩雲国物語」雪乃紗衣
「今日からマ王!」喬林知
「身代わり伯爵シリーズ」清家未森
香月日輪
高里椎奈
「ウルフガイシリーズ」平井和正
「8マン」平井和正
「超革命的中学生集団」平井和正
「アンドロイドお雪」平井和正
「坂東蛍子、日常に飽き飽き」神西亜樹
「魔法科高校の劣等生」佐島勤
「ブラックロッド」古橋秀之
「キーリ」壁井ユカコ
「とらドラ」竹宮ゆゆこ
「やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。」渡航
「魔界都市〈新宿〉」菊池秀行
「陰陽師」夢枕獏
「戦闘妖精・雪風」神林長平
「おもいでエマノン」梶尾真治
「撲殺天使ドクロちゃん」おかゆまさき
「ルナルサーガ」友野詳
「ソード・ワールド サーラの冒険」山本弘
「GOSICK」桜庭一樹
「僕の妹は漢字が読める」かじいたかし
「まぶらほ」築地俊彦
「よくわかる現代魔法」桜坂洋
「さくら荘のペットな彼女」鴨志田一
「ココロコネクト」庵田定夏
「物語シリーズ」西尾維新
「猫の地球儀」秋山瑞人
「ぼくらは虚空に夜を視る(ナイトウォッチ三部作)」上遠野浩平
「悪の娘」悪ノP
「南極点のピアピア動画」野尻抱介
「世界の終わりとハードボイルドワンダーランド」村上春樹
「ささみさん@がんばらない」日日日

※言及順・敬称略。まとめ本編と重複して言及しているものについては省略しています。

追記を含めた最終更新・2014/10/12
※ 作品データについては、すべて2014年8月末時点のものです。



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