ドラえもんの生みの親『藤子・F・不二雄』の傑作短編SF漫画7選です。その皮肉や風刺に満ち満ちたブラックな内容は、まさに大人こそ読むべき漫画ではないでしょうか。
経歴【1933年〜1996年】日本の漫画家。
本名は藤本弘。安孫子素雄(藤子不二雄(A))とともに“藤子不二雄”としてコンビを組み、ユーモアあふれる着想の子供向け作品を数多く生んだ。
代表作は『ドラえもん』をはじめ、『オバケのQ太郎』『パーマン』『キテレツ大百科』『エスパー魔美』『21エモン』などなど。
没後20年代近くたった現在においても、根強い人気を誇る日本を代表する漫画家の一人である。
圧倒的な仕事を残した伝説の天才
子供向け作品を手がけるその手腕のあざやかさは、「子供たちの夢と願望を心にくいばかりに視覚化する」と評されるように極めて高い評価を得ており、没後も子供漫画の名手としてのその名声は揺らいでいない
イメージと違う…∑(゚Д゚
そんな藤子・F・不二夫の残した短編SF漫画の中には、皮肉や風刺に満ちたブラックな作品が少なくない事をご存知だろうか?
広く、『ドラえもん』の作者として知られる藤子・F・不二雄だが、それは、『ドラえもん』の作者としてしか一般には知られていないということでもある
勿論、藤子・F・不二雄が『ドラえもん』しか描いていなかったかといえば、そんなわけはない。
内容は完全に大人向けでありまして、非常に風刺的でシュールな筋立てが多く、今でもカルト的なファンが多数居ると言う事でも有名
現在になっても古びないというより、今、読み返した方がゾッとさせられる、予言じみた魅惑に満ちている
では、具体的にどんな作品を残したのか??
その1 ヒョンヒョロ
1971年に早川書房の月刊雑誌『S-Fマガジン』増刊号に発表された作品。
これぞ異色作品、という感じだ。ザッと読んだところで、一体それで何を言いたかったのか、大抵の読者はよく分からないのではないだろうか
出典ヒョンヒョロ
奇妙なウサギ?
少年の前に突然現れたウサギに似た容姿の無敵万能な怪人。
初期の『ドラえもん』に似た絵柄で、序盤はドタバタ調のコメディっぽいですが、ウサギが本性を現した辺りから雲行きが怪しくなっていくのが魅力
衝撃の結末
彼は「ヒョンヒョロ」なる謎のものを返してもらおうと、誘拐状を渡すのだが……。
常識や慣習に囚われ、迫りくる悪意に気付かないふりをする我々への暗喩だ。その危険性をやっとこさ認めた時は、すでに遅し
F先生の短編の中でも1、2を争うオチの怖さの作品です。絶対読んでください
とにかくラストが秀逸!
その2 気楽に殺ろうよ
1972年『ビッグコミック』5月10日号に掲載された作品。
なかなかショッキングな作品
今いる世界に奇妙な違和感を覚えた男の物語。
「ヒトが羞恥する習慣」が入れ替わった世界に迷い込んだ男が入れ替わった世界の医者にかかって事の顛末と対処を考えるお話
このパラレルワールドでは、性欲と食欲のとらえ方が逆転していて、前者をオープンに、後者を恥ずべきもの(例えば、カーテンを閉め切って静かに食事をし、外食などありえないなど)と常識的に考えられている。そしてまた、殺人についても、権利書を持てば合法的に行う事が出来るのだとか。
どうなる事やら…
現代人の生活様式や常識、固定観念といった根本的な価値観の逆転が鮮やかに描かれている意欲作。
ボタンの掛け違いが一変することで、恐ろしいことになると言う思考実験を描いた作品。これもオチの表現に気付くと怖くなります
普段当たり前と思っていることにも、ちゃんと理由があるのではないか。或いは、理由もないことを、私たちは当たり前と思ってはいないか。そういうことを、今一度自分自身に問い直してみるのも良いかも知れない
出典気楽に殺ろうよ
その3 劇画・オバQ
『オバケのQ太郎』のその後
1973年に『ビッグコミック』(小学館)2月25日号に掲載された。
『オバケのQ太郎』の後日談だ。社会人になった主人公、正ちゃんのもとにオバケのQ太郎がやってくるところから始まる
外伝みたいな
『オバケのQ太郎』のエピローグ的物語。
ちょっと、TEDみたいな雰囲気があるなと思った
読んでいくと、もうせつなくてせつなくて、たまりません
出典劇画・オバQ
楽しかった少年時代への決別が自己パロディ的に描かれる。
テーマは「大人になること」であろうが、まさに「大人」の視点から読むと、身につまされる話なのである
子どもの頃から知っているキャラクターが変わっていくのはホント辛い。読まなきゃよかったとすら思った(でも、面白いから興味のある方は是非)
出典劇画・オバQ
大人、特に、結婚し子どもを持ち「親」になった人に読んでほしい作品。
その4 ノスタル爺
1974年『ビッグコミックオリジナル』2月5日号に掲載された。
当時、日本には横井さんや、小野田さんなど、戦後何年も外地で生きていた兵士の帰還などがあり、そこからヒントを得たのかもしれない
切ない、あまりに切ない
戦後30年あまりジャングルに潜んで暮らしていた男が、ダムの底に沈んだはずの故郷(つまり過去の世界)に迷いこんでしまう物語。
閉鎖的な田舎にある旧家の持つ力の恐ろしさ、戦争によって壊されてしまう人との繋がり、時間など、失ったものの大きさと大切さを短い中に描ききってる
なくした過去を取り戻す男。そんな形で、と分かっていながら取り戻したつもりの男。その気持ちが俺にもあるだけに、痛くも悲しくもある種の幸福感があった。卑屈な幸福が
出典藤子F不二雄
メビウスの輪のようなお話です。
その5 コロリころげた木の根っ子
1974年『ビッグコミック』4月10日号に掲載された。
超絶ブラック!!∑(゚Д゚)結論から言うと、亭主関白な旦那を殺そうとする奥さんの話
口に蜜あり腹に剣あり
大人しい妻と暴君のような夫の生活が描かれる。
一番最後のコマがどれも秀逸なのだが、本作の最後のコマは本当にぞっとする。背筋が薄ら寒くなると言う代物で、これが本当に藤子作品なんだろうかと疑うほどだった
是非、ご自分の目でお確かめください。
その6 箱舟はいっぱい
1974年『S-Fマガジン』10月増刊号に掲載された。
星新一のショート・ショートをマンガ化したもののようなテイスト
あなたならどうする?
ひょんな事から、彗星の接近による影響で、地球が滅亡するという、恐ろしい事実を知ってしまった家族の数奇な物語。
どんでん返しに次ぐ、どんでん返し。生き残れるとしたら、生き残りたい…ものか?天変地異に対しては、人間は無力ですね
ああ、しかし、飛び立つヘリコプターのなんと寂しいことか。「ルルル・・・・」である、「バタバタバタ」ではない。風が強くなろうが構わずにピクニックに出かける主人公たちのほうが余程元気がよろしい。バイバーイ(永久に)
出典箱舟はいっぱい
その7 ある日……
ザ・ショートショート
奇想天外社『マンガ奇想天外』1982年5月号に掲載された作品。
伏線もなく、唐突すぎる、説得力あるショートショート。やっぱり、うまいなあ
物語は町内の自主映画制作愛好家たちの上映会から始まる…。非常に短い物語ながら、藤子・F・不二雄の天才性が遺憾なく発揮されたあ傑作。
ぜひ何も情報を入れずに読んでいただきたい。なす術もなく、たぶんおそらく「その時」はやって来てしまう。最終ページの最終コマに至る流れととにかく絶妙かつあっけに取られる幕切れが秀逸すぎる
「すこし、ふしぎ」な世界を体感しよう!
読むしかないでしょ!
どれもとても面白い作品なので、未読の方はぜひ読んでみてください!
メディアで紹介されることも増えたけど、本当にいい作品って、必ず発掘されるもんやな