ビジネスメールやお礼状の手紙で用いることの多い二人称の敬称。ざっとあげただけで貴殿・貴女・貴方・貴台・貴職・貴兄・貴下・貴公・貴君・貴姉・貴嬢・貴様と様々な種類があります。ここでは、これらの人代名詞の読み方・意味・使い方・使い分け方をまとめます。
意外とややこしい「二人称の敬称」
▶利用頻度の高い「二人称の敬称」
◆まずは基本中の基本「貴殿」
【貴殿】⇒目上または同等の男性に
読み方:きでん
意味と使い方:
「貴殿」は利用頻度の高いオールマイティーな二人称の敬称。手紙・メール・ビジネス文章で多く用いられる。
「貴殿」の代用表現(言い換え)は、かたい文章なら「貴台」が用いられることが多い。
「貴殿」とは、目上または同等の男性に対して用いる敬称
「殿」という言葉は、古来より宮殿や貴人の邸宅、寺院の建物などを指す言葉であった。
女性から男性へ使ってもおかしくありません
手紙・メールに限らず、会話文・口語表現(弔辞でよく耳にする)にも使えます。
◆女性に対しては「貴女」がオールマイティー
【貴女】⇒女性全般に対して敬意を表す
読み方:きじょ(口語表現で「あなた」と呼ぶことも)
意味と使い方:
主に手紙文・メールで用い、女性に対する敬意を表す。対義語で「貴男」という表現もあるが、こちらはあまり一般的ではない。
女性に対しては「貴女」が一般的
◆口語表現でよく用いられる「貴方」
【貴方】⇒自分と同等あるいは目下の者
読み方:あなた・きほう
意味と使い方:
「貴方」は口語表現でよく用いられる。丁寧さ・親しみがこめられており、男女どちらに対しても使える表現。複数形では「貴方たち」「貴方がた」となる。
「貴方」と言うのは、自分と同等、あるいは同等以下の者に使う
奥さんが旦那さんの事を「あなた」と呼ぶのも、同等であり、また敬意を込めているという意味合いが含まれている。
◆「貴殿」のかわりに用いられることが多い「貴台」
【貴台】⇒目上または対等の相手に
読み方:きだい
意味と使い方:
「貴殿」の敬意がさらに高まった表現。貴殿と同様に、「台」の字は宮殿や貴人の邸宅などが由来。
「台」の字を用いた類似の表現には「尊台」「高台」があるが、現在では、ほとんど用いられない。
「貴殿」に比べ「貴台」の方がより丁寧な表現
「台」は、本来、土を積み固めて作った壇のことであり、そのような壇の上に立てた建物も台と呼ばれた。いわゆる宮殿・邸宅・寺院などを指す言葉。
《「貴台」の使い方・例文》
「謹啓 初春の候、貴台にはますます御清栄のこととお慶び申し上げます」
手紙文での、この様な使われ方が一般的。
▶注意したい「二人称の敬称」
◆役職に対する敬意だが、注意したい「貴職」
【貴職】⇒本来は「役人」をさして使う言葉
読み方:きしょく
意味と使い方:
「職」は職業・役職という意味ではなく、「職(しき)」という官吏(国家公務員)をさす言葉が語源。
したがって、ビジネス文章などではあまり用いられない。ちなみに自分のことをさす「小職」も、民間企業に勤める人は、本来使うことは不適切。
「職」は「官職」を意味し、一般的な「職業」を意味するものではありません
「小職」について。
▶親しい間柄への私信では
◆親しい間柄で用いる「貴兄」
【貴兄】⇒親しい同輩・先輩に対して
読み方:きけい
意味と使い方:
特に親しい間柄の同輩・先輩に対してかしこまった際に用いられる言葉。ビジネス文章やビジネスメールではあまり使われず、私信で用いられることが多い。類義語・同義語として「大兄(たいけい)」という言葉もある。
《「貴兄」の使い方・例文》
「貴兄のご活躍をお祈り申し上げます」
《「貴兄」の使い方・例文》
「貴兄の御忠告身にしみて感じました」
▶目下の相手にはこんな表現も
◆同等または目下の相手に用いる「貴下」
【貴下】⇒同等または目下の相手に
読み方:きか
意味と使い方:主に手紙文で用いられる言葉。
《「貴下」の使い方・例文》
「貴下のご意見お聞かせ願いたく」
《「貴下」の使い方・例文》
「貴下の御健闘を祈る」
◆「貴下」と似た使われ方の「貴公」
【貴公】⇒同輩や目下の者に対して
読み方:きこう
意味と使い方:意味と使い方は、ほぼ「貴下」と同じ。
主に男性が同輩や目下の男性に対して用いる
「公」は、本来、宮殿や官庁の建物のことであり、それから転じて中国では大臣・長官を指して使われた。従って、本来は目上の相手に対して使う言葉だったが、日本では、対等か目下の相手に対して使うことが一般的となった。
◆「貴下」「貴公」と同様の意味の「貴君」
【貴君】⇒同輩・目下の男子に用いる
読み方:きくん
意味と使い方:意味と使い方は、「貴下」「貴公」とほぼ同じ。主に手紙文で用いられる。
手紙の中で尊敬をこめて対等又は目下の男子に用いることば
出典難読語辞典
《「貴君」の使い方・例文》
「貴君の御成功を祈る」
▶女性に対する敬称
◆主に年長の女性に対して使われる「貴姉」
【貴姉】⇒自分と対等または目上・年長の女性を敬って呼ぶ語
読み方:きし
意味と使い方:多く手紙文に用いられる言葉。
年長の婦人を敬って用いる
「姉」と入るが、年齢的に上に見るだけではなく、目上、あるいは対等の女性に用いる言葉でもある。
◆未婚の女性に用いる「貴嬢」
【貴嬢】⇒未婚の女性に
読み方:きじょう
意味と使い方:「嬢」という語は。本来、未婚の女性の氏名に付けて、敬称として使う用法がある。(例)「山田花子嬢」
未婚の女性を敬って用いる言葉
《「貴嬢」の使い方・例文》
「貴嬢の作品、拝読しました」
▶そして…
◆現在では意味が変わった「貴様」
【貴様】⇒きわめて親しい同輩か目下の者
読み方:きさま
意味と使い方:中世末から近世中期までは文字通り尊敬の意を含んで用いられ、「貴殿」と同義であった。しかし、最近では、親しい対等の者または目下の者に対して用いられ、敬意も薄まっている。また、相手をののしる場合にも用いるため、あまり使用はすすめられない。
きわめて親しい同輩か目下の者に対して用いる
◆参考
-その他の二人称として使用される「貴」を含む語
「貴辺」(きへん) 目上の相手を敬って。
「貴顕」(きけん) 身分や名声が高いことを意味する形容動詞でもある。またその人や様子。
「貴丈」(きじょう) 男性に対して敬って。近世は書簡などで用いた。
「貴所」(きしょ) 相手を敬って。中世以降、男子に対して。近世以降は同等の相手に。
「貴官」(きかん) 相手が軍人や公務員、特に国家公務員の場合。
「貴僧」(きそう) 僧侶に対して。
「貴老」(きろう) 老人に対して。
「貴家」(きか) 相手を敬って。人にも家、家庭にも
(これらの二人称の敬称は現在ではあまり用いられない)
▶というわけで
ビジネスメールで目上に対しては「貴殿」を用いるのが無難
あまり凝った言い回しはしないほうがよいかもしれません。