スティーブ・ジョブズ氏といえば、誰もが認める『カリスマ』『天才』ですが、崇められる一方で、同じくらい嫌われていた男でもあったとも言われています。そんな彼の二面性を、娘の立場から語ったとして、一冊の本が話題になっています。
“Steve” Jobs、1955年2月24日 – 2011年10月5日)は、アメリカ
合衆国の実業家、技術者、作家、教育者。アップル社の共同設立者の
一人。アメリカ国家技術賞を受賞している。
スティーブジョブズという人物がいなかったら、あと数十年はIT化
が遅れていたかもしれない、もしくはスマホやパソコンが日常生活に
馴染むことはなかったかもしれない。
▼そんな天才との『複雑な親子関係を綴った本』が、米で大反響
ハーバード大学を2000年に卒業し、
プロの作家として活動中。
『Small Fry』には、
おちびちゃん、
取るに足らないものや人
などという意味がある。
米誌「ヴァニティ・フェア」で自叙伝の衝撃的な内容の一部が
公開されているそうです。
▼リサの描く『ジョブズ氏の像』に対して、親族は戸惑いを隠せない
冷淡で時には不適切な父親として描かれたリサ氏のジョブズ像
に対し、同氏の妻や妹は、自分たちが知っているジョブズ氏とは
「あまりに違う」と訴えている。
ローレンやほかの子どもたち、スティーブの妹のモナ・シンプソン
は、ニューヨーク・タイムズ紙に声明を出した。「リサは家族の一員
です。わたしたちの記憶とは大幅に違っている彼女の本を読み、
悲しく感じています。スティーブの描写は、わたしたちが知っている
夫や父親ではありません。スティーブはリサを愛していました。
彼女の幼いころに模範的な父親ではなかったことを後悔していました
。スティーブにとって、最期にリサがわたしたちと暮らしたことは、
おおいなる慰めでした。家族として一緒に暮らした年月に、わたし
たちは感謝しています」
この義母のローレンも、リサの著書の中では、辛辣な人間として書かれている。ジョブズ氏とローレンがリサをカウンセリングに連れて行った時、リサが泣きながら”孤独だ”、”両親におやすみを言ってほしい”とカウンセラーに訴えると、ローレンは、”私達は冷たい人間なんです”と答えたという。
▼本に綴られた、『ジョブズ氏とのエピソード』
● 元恋人とは裁判、子供は認知せず、安いうちに買い叩く
(右)リサの母親『クリスアン・ブレナン』
ジョブズ氏が23才の時に、高校時代から交際して
いたガールフレンドのクリスアンとの間に、
リサが生まれた。
母親(クリスアン)自身も過去に自伝を書いていて、それによれば
、リサさん以前にも子を宿しましたが、合意の上で中絶を選んだ
そうです。
その後クリスアンは一人で娘のリサを産み……その後9年が経って
から、ようやくジョブズはリサを認知するに至っています。
初めは認知もしなかったのが、裁判の途中で和解となり、血縁関係を認めるにいたったのは有名な話です。
子供は認知しないし、金銭も一切払おうとしないジョブズに対して
クリスアンは裁判を起こすのですが、その法廷に立ったジョブズは
なんと、クリスアンが”誰とでも寝る”売女だと証言し、子供が他人の
子である妥当性を証明しようとしました。
また裁判で、ジョブズ自身、自分は子供のできない身体であるので、リサは自分の子ではないと言い張りながら、その実、現奥様との間に3人の子供を設けているのですから、嘘をついていたわけです。
「(最終的に裁判所から)命じられた支払いは月額385ドルでした
。ジョブズ氏はこれを500ドルに引き上げ、双方の合意を急いだん
です。なぜなら、アップル社の上場が迫っていたから。事実、
支払い手続きが完了した4日後に上場し、ジョブズ氏の資産は2億ドル
に跳ね上がりました。上場後に養育費を算出されると支払額が増える
ための判断なのでしょう」
「養育費の支払いを受けてはいたものの、リサさんと母は、
生活保護を受けながら生活し、彼女が7歳になるまでに13回も
引っ越しを強いられたといいます」
● 無味乾燥な、『ダース・ベイダー』のような声
(ジョブズ氏は)、リサさん母娘の家を訪問。「僕を知ってる?」
と聞かれて知らないと答えると、”I’m your father.” とダース・ベイダ
ー卿のように言った……と母から後で聞いた(当時のリサさんはまだ
3歳)と述べています。
それ以降、ジョブズ氏は頻繁に会いに来たものの、あまり父娘の
会話はなく、幼い頃の思い出は何回かスケートしたぐらいで、服や
自転車も買ってくれなかったとか。一方で、愛車のポルシェに
少しでも傷がつくとすぐに新品に買い替えていたそうです。
● 『金銭的にも困惑』させられた
母からは“パパは、ちょっとキズがついただけで新車に買い替える
ような人”と聞いて育ったリサさんは、ある時、ジョブズ氏の運転する
ポルシェの助手席に座った際、“この車、いらなくなったらくれない?
”と尋ねたことがあった。
「すると返事は、“お前には何もやらない。わかるか? 何ひとつ、
だ”。質問したことを後悔したとも著作で明かしています。
リサは、ジョブズは”お金も、食べ物も、言葉も与えてくれなかった”と語る。ただ不思議なのは、こうした言動をとるのに、リサを車の助手席に乗せたり、幼いリサを大変かわいがる写真もちょこちょこ撮っているのである。
ある時は同席していたレストランから支払いを済ませず勝手に出て
いってしまったり、別のある時はリサ氏と母親のために購入したはず
の家に、自身の妻(ローレン・パウエル・ジョブズ)と一緒に
引っ越したりと、嫌がらせとしか思えないようなこともあったそう。
ある日のディナーでは、何の気なしに肉を注文(ジョブズ氏は菜食
主義者だったと言われている)したリサ氏のいとこに向かって、
「お前の声がどんなに醜いか、考えてみたことはあるか?」「その
醜い声で話すのをやめてくれ」「自分のどこがダメなのか、真面目に
考えて直す努力をするべきだ」などと言い放ったことなどが記されて
います。
そんな中、リサが高校に入った頃、生活も精神的にも追い詰められていた母親との関係が緊張。リサは、ジョブズ氏に一緒に住めないかと希望します。しかし、毎晩の食器洗い、幼い子供達の世話、お金持ちのジョブズ氏が、リサの部屋に暖房器具さえ入れるのを拒んだこともあったそうで、実の母への電話も禁止されていたそうです。
▼アップル・ファンには気になる、『Apple Lisaとリサの関係』
認知は拒否していたとはいえ、リサが生まれたとき、ジョブズは
新しいAppleのコンピュータに「Apple Lisa」という名前をつけた。
(ジョブズ自身は、Local Integrated Software Architectureの頭文字
をとったのだと主張している)
パチ、パチ、パチ!! でも、ずっと娘の名前じゃないって、否定しちゃったのよね。
(しかし、旅先の)昼食中にアップルについての話となり、(U2の)
ボノが「で、Lisaコンピュータは彼女の名前から付けたの?」と聞か
れたジョブズ氏は、少しためらった後に「うん、そうだった」と
答えたとのこと。
なかなか、手ごわい。もっと早く素直になれたら、楽なのに。
リサさんは「初めて父がイエスと言った。質問してくれてありが
とう」とボノにお礼を述べたそう。
▼『最期の言葉』が、”お前はトイレの匂いがする”
今回の著作で話題を呼んでいるのが、父からの最期の言葉が
「お前はトイレの匂いがする」だったというエピソード。
(ライターの関陽子氏曰く、)「これはちょっと説明が必要で、
ジョブズ氏はもともとスピリチュアルとかオーガニックに関心を持つ
人でした。リサさんの母との出会いも、当時のヒッピーブームの流れ
だったといいますからね。それは晩年になっても変わらずだったので
しょう、リサさんがお見舞いにジョブズ氏の家を訪れた際、バスルー
ムに置かれたバラの香りのフェイシャルミストが、ナチュラルなもの
だったそうです。それを吹きかけ父と向き合ったリサさんでしたが、
人工香料でないためか、ミストは時間が経つにつれヘンな匂いに…。
ご本人いわく“沼地のような臭い”。それを受けての、ジョブズ氏に
とっての『トイレの匂い』だったというわけです」
▼ジョブ氏の、『リサ以外の3人の子供達(リサの異母兄弟)』
「スティーブはローリーンと結婚するまで、自分が家族を持つこと
などないと考えていたふしがあります。もちろん、彼の生い立ちが
関係しているのでしょう」
1955年2月24日、シリアからの留学生で政治学を専攻する大学院生
アブドゥルファター・ジャンダリとアメリカ人の大学院生ジョアン・
シーブルとの間に生まれる。ジョアンの父親が、ムスリムのシリア人
であるアブドゥルファターとジョアンとの結婚を認めなかったため、
誕生以前から、養子に出すことに決められていた。
スティーブはポール・ジョブズ、クララ・ジョブズ夫妻に引き取られることになった。彼らに提示された養子縁組の条件は、ジョブズ氏を大学に進学させること。育ての親である彼らは、約束を守り、ジョブズ氏を大学へと進学させる。
ジョブズ氏は自分の中に長い間、家族を大切にしようとしない
(実の)父と同じ血を見ていたのではないか。だが、ローリーンさん
と結婚し、子供を得て、新しい家族を築き上げたことで、ジョブズ氏
はリサさんをようやく受け入れるのだ。
アップルで最初の成功を収めたジョブズ氏は、1度だけ実の両親を探したことがある。両親は正式に結婚し、ジョブズ氏の実の妹モナさんも生まれていた。しかし、その後、両親は離婚。父親は再婚したが、母親とモナさんの生活は困窮する。その事実を知って以来、父親とは生涯会っていない。
(ライターの関陽子氏曰く、)なんでもジョブズ氏は、妻との間の
3人の子供に対しても、長男は可愛がり、残る娘たちには冷たかった
そうです。ですからリサさんに対する振る舞いも、素直ではない愛情
の裏返し、男児が好きな女の子に『ブス!』と言ってしまうような、
そんな感情なのかも」
しかし、リサをひきとったことや、ジョブ氏が亡くなる際、遺言ではリサさんに数百万ドルを残したとも伝えられているので、リサさんを愛していたのではないでしょうか。ちなみに、リサさんの母に遺した額はゼロ。未亡人のローレンさんは、総資産200億ドル(2兆円)超えの遺産を相続したそうです。
▼『批判しながら愛し』、『喜ばせながら冷酷になる』
子供じみた八つ当たりや嫌がらせ、その合間に見せる気まぐれな
優しさ──スティーブ・ジョブズの娘、リサが書いた父の回顧録は、
彼のときに極端でときにいびつな我が子への愛が溢れている。
リサはスティーブに興味を持たれることに”わくわく”していました
が、スティーブは当時”冷たく、批判的でしかも気まぐれだった”
ようで、それがAppleをマネージメントするスタイルにも表れている
とされています。
(ビジネスに於いても、)無理難題を押し付け、人を罵倒しながら
も、不可能なことを成し遂げてしまうのが「現実歪曲フィールド」と
呼ばれるスティーブジョブズの技だ。
▼ ”私は父を許す 読者のあなたも受け入れて”
この本には父といっしょにローラースケートをしたり、笑い合った
りしている場面もあり、こういうシーンこそ彼女はどんどん拡散して
もらいたいと考えている。「お前が私から継ぐものなど何もない!」
と言い渡す場面だけでなく。
リサのジョブズ氏への理解は、こう本に記されている。 Apple Lisaはリサの名前を付けたのではない=親の七光りを利用しないようにと教えてくれていた。暖房をつけてくれなかったのは、価値観を教えてくれていた。トイレみたいな匂いがすると言われたのは、ジョブズ氏の嘘のつけない性格なのだそう。
彼女の幼い頃に相手をしなかったことや、誕生日すら忘れていた
こと、伝言や電話も返さなかったことなどをジョブス氏は謝り
ました。また、泣きながら何度も「ありがとう」と懺悔を述べて
きたこともあったのだとか。
(しかし、)リサが父をゆるしているのはいい。厄介なのは、
ジョブズに対するゆるしを読者にも求めていることだろう。
リサ自身、それは難しいかもしれないとわかっているようだ。
実母のクリスアンは、”リサは本書の中で、実際にはどれほどひどかったかまでは踏み込んでいない”と、ニューヨーク・タイムス紙で、リサを擁護しています。
▼『寄せられた声』
ジョブスは天才であっても、泣きたいくらいに不器用な人だったと
思っています。ジョブスさんは小さい頃に養子に出された原体験も
大きいと思います。ジョブスさんも、一人の不完全な人間で、
ダレより自分のビジョン実現に正直な人でした。
まず、認知心理学者のエリザベス・ロフタス氏の業績が示すように
、子ども時代の記憶というのは実際に起こったことを正確に表して
いるものではない点を覚えておきたい。忘れたことや覚えていること
、そして記憶に与えている意味というのは、本人が作り上げた「人生
の物語」によって色付けされているのだ。突飛で矛盾している記憶や
相容れない事実をなんとか理解したり受け入れるよりも、首尾一貫
したストーリーを語るほうが心地よい。
そのストーリーが、事実よりもネガティブであるかポジティブであるかは関係ない。もしかしたら、リサの記憶は正確ではないのではないか、ジョブズ氏は本当にそのような父親だったのだろうか、と問う声も、寄せられている。